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私のシューベルティアーデ(7) 〜 ピアノ・ソナタあれこれ(メジャーレーベル編)

・第13,18〜21番、即興曲、楽興の時、3つの小品
 クラウディオ・アラウ
 (Phillips)

 70年代後半から91年の死の直前にかけてのクラウディオ・アラウ晩年の記録です。中でも第18番、楽興の時、3つの小品、即興曲は彼の最後の録音の一つ。全体に遅いテンポで一言一言慎重にじっくりと言葉を選びながら語りかけるような、シューベルトにしてはどこかゴツゴツした武骨な外見です。例えば、あの愛らしい第13番でさえスケールの大きな大ソナタのように感じられますし、小品たちもまるで一編の完結した交響的作品のようです。
 最初聴いた時は、「牛刀で鶏を割く」演奏のように思えて戸惑いましたが、しかし、虚心に耳を傾けていると、どの演奏も滋味深い表現に満ち溢れていることに気づきます。私が愛聴している彼の弾くリストの小品「孤独の中の神の祝福」に通じる、透明で清らかな境地がこれらの演奏の中にも透けて見えてきました。何度も繰り返し聴いて味わう価値のあるものだと思います。特に最後の録音の第18番「幻想」は、果てしなく広がる空間の中で瞑想をするかのような沈黙の深さに心を揺さぶられました。美しく齢を重ねた「巨匠」の音楽の懐の深さに感動しました。

・第19〜21番
 マレイ・ぺライア
(SONY)

 発売時大きな話題となったマレイ・ペライアの後期3大ソナタの演奏は、どれも多くの人たちがこれらの音楽に対して抱くであろう最大公約数的なイメージを具現化したようなオーソドックスな表現で、繊細なタッチから夢見るように美しい音楽が生まれ出てきます。ある意味、非の打ち所のない模範的な名演だと思います。
 ですから、もし私が人から「これ、いい演奏だった?」と聞かれれば嬉々として「イエス!」と答え、「是非聴いてみてください」と言うでしょう。しかし、「これは、あなたの好きな演奏だった?」と聴かれれば、「サラサラと音楽が蒸留水のように進んでしまう気がして、残念ながら少し求めるものが違うかな」と答える気がします。もう少しじっくりと時間をかけて、シューベルトの、そして私自身の心の中をあちこち歩いてみたい気がしました。
 ペライアはとても好きなピアニストなのですが、「ゴルドベルク」でもこのシューベルトでも、最後の最後の部分で違和感を感じてしまうようです・・・。

・第20番,即興曲D.942
 ルドルフ・ゼルキン
(SONY)

・第15,21番
 ルドルフ・ゼルキン
(SONY)

 モノの15番以外は ルドルフ・ゼルキンの比較的晩年のスタジオ録音で、シューベルトの音楽の中にある「孤独」を質量のある「実体」として捉え、それとまっすぐに向き合って哲学的な思索をめぐらせているような演奏です。まるでベートーヴェンのソナタを演奏するかのように、一つ一つの音は十分に吟味され強い意志を持って完璧に制御されて鳴らされていますが、と同時に「どこへも向かっていかない」で同じところを逡巡したり後戻りしたりしている宙ぶらりんの音たちも見たままに表現されています。その結果、聴く者は厳しい孤独の実感の中にいきなり連れ込まれ、無駄を削ぎ落とされギリギリまで追い込まれた音と向き合い、そして何より自分自身の心と向き合うことを強いられます。
 最近、村上春樹の「ねじまき鳥クロニクル」を読んだのですが、主人公が井戸の底に潜って闇の中で自らに向き合い思索する場面があって、自分がそんな立場になればきっとこの演奏が頭に浮かぶだろうと思いながら読みました。
 実のところ、シューベルトの音楽ってそんなに厳しいか?という気もしますが、ここまで透徹した音楽には感服します。聴いていてかなり疲労しますが、でも、じっくり自分と向き合いたいときにはゼルキンの演奏に手が伸びるだろうと思います。

 ・・・まだまだ私のシューベルト巡礼、続きそうです。

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  • 2017.04.28 Friday
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