【気になる演奏家 23】ハナ・ブラシコヴァ(S)

2012.04.07 Saturday

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    ・ハナ・ブラシコヴァ(S)








     昨日のBCJの「マタイ」では、チェコ出身のソプラノのハナ・ブラシコヴァの歌にとても強い感銘を受けました。昨年、女性ヴォーカル・アンサンブルでの歌唱を聴いて魅せられて以来、いくつかのCDを聴き、そして、今年に入って、BCJとのカンタータと「マタイ」をナマで聴いて、私にとって、彼女がヌリア・リアル、ドロテー・ミールズと並んで、心から敬愛するバロック・ソプラノ歌手であることを確信しました。

     黒くて長い髪の持ち主で、すらっとしたスレンダーな長身の女性。写真で見る彼女の風貌は、どこかエキゾチックな顔立ちのようにも思える。どことなくミステリアスで、ちょっと翳のある雰囲気も持った女性。BCJとの演奏会では、歌っていない時は、首を少し傾げながら楽譜を一心不乱に見ていたり、時折客席をじっと眺めていたり、ついつい彼女の挙動を追ってしまう。演奏が終わった後のカーテンコールも、ごく控えめな態度で、あまりディーヴァというような尊大さは感じない。もっとナイーヴな少女のような完成をもった人なのかもと思ってしまいます。

     彼女の声はまさに玉を転がしたような美しさがあって、特に高音での透明な輝きには胸がときめいてしまいます。自国チェコの古楽アンサンブルだけでなく、インターナショナルに活躍するヘレヴェッヘや鈴木雅明といった名指揮者が重用しているのもうなづけるほどに優れた歌を聴かせてくれる。レコ芸やBBC Music Magazineなどでの評価も上々。まださほど一般に知られている歌手とは言えないかもしれませんが、もう既に古楽界のスター歌手としての足場を固めつつある。

     彼女はまず何と言っても、バッハのカンタータやゼレンカの宗教曲を歌うバロック・ソプラノ。特に自国の大作曲家ゼレンカの曲を収めたCDでは、神出鬼没というくらいに彼女が頻繁に起用されている。そのうち私が聴いたいくつかのCDもほんとに美しい声と、理知的な歌を堪能することができます。YouTubeにも、ゼレンカを始め、モンテヴェルディやカリッシミなどの作曲家の歌がUpされています。少しだけ貼り付けておきます。

     まず、バッハから2つ。
     
     最初は、ヘレヴェッヘのマタイ受難曲から「血を流せ、わが心よ!」(昨日のBCJの公演では、彼女はソプラノ1を歌ったので、こちらは歌いませんでした。)。ヘレヴェッヘは、最近リリースしたミサ曲ロ短調の3回目の録音でもこのブラシコヴァを起用しています。私もそのCDは購入済みですが、未聴。楽しみです。


     もう一つは、バッハのカンタータ82番。オーボエではなくフラウト・トラヴェルソのバージョン。ちょっと画質は悪いですが、私が偏愛してやまないこの曲、彼女の正規の録音が是非とも欲しいです。



    そして、彼女が得意とするゼレンカ。「誓願のミサ」からQui Tollis。CDも出ているコレギウム1704との共演。



    次に彼女のもう一つの顔。ゴシック・ハープの弾き語りをする歌手としての歌。昔、一世を風靡したエステル・ラマンディエを思わせる形態ですが、歌はまったく違う雰囲気。最近、私はこういう歌に目がないので、この動画は宝物です。素晴らしい。お願いだから、誰か、彼女を単身招聘して、彼女の弾き語りのコンサートを開いてほしい。ライヴハウスのような小さなところで。平身低頭、お願いします。





    ところで、昨日、彼女のことを調べていて、びっくらこいて腰を抜かしたことがあります。彼女にはもう一つの顔があるのです。それは、ロックバンドのベーシストとしての顔。最初は、へえー、同姓同名の女性ロッカーがいるんだと思ったのですが、写真を見てびっくり。昨日、あの清純なバッハの歌を聴かせてくれた、そのハナ・ブラシコヴァが、ワイルドないでたちでベースを弾いているのです!!!!!!!!!!!





     彼女が所属するバンドは、Stillknox(スティルノックス?)。パンク系のバンドらしく、かなりアナーキーな曲をやっているみたい。




     正直、あの中世からバロックの音楽をあれほど端正に歌う彼女と、どちらからといえばダーティーなバンドでベースをかき鳴らす彼女が同一人物であるというのは、今でも信じられないくらいです。いや、ロックをやっているのが悪いとかいうことなんかはまったくない。ただただ驚いているのです。こんな両極端のものが、彼女の中で、何の矛盾もなく両立しているということが。まったく別物として存在しているのか、あるいは、両者がちゃんと結びついているのか。ロックでの活動が、クラシックでの活動にどんな影響があるのか、逆はどうなのか(バンドでは歌はコーラスだけみたいです)。

     いまだかつて、こんな風にクラシックとロックを両立させてきた演奏家なんているんでしょうか?しかも歌手。エマ・カークビーがロックを演奏する姿なんて想像つかないし、レディー・ガガが完全に古楽の様式にのっとってゼレンカを歌うなんてまずあり得ない。これは私は凄いことだと思います。21世紀だからこそ生れた新しいタイプの音楽家だと思います。あるいは、チェコというお国柄もあるんでしょうか?

     とにかく、私はこのハナ・ブラシコヴァというミステリアスな歌手、そして女性に深い関心を持っています。彼女のことをもっと知りたいし、彼女の音楽にもっと接していきたい。できることなら、前述のようなゴシック・ハープの弾き語りのコンサートと、Stillknoxのバンドメンバーとしてのコンサートを、実際に聴いてみたいと思います。勿論、古楽の歌唱も聴きたいのは言うまでもない。バッハだけじゃなく、ゼレンカも聴きたいし、モンテヴェルディやヘンデル、カリッシミなどの彼女のレパートリーを是非聴きたいと思います。

     もしかしたら、彼女がこんな活動をしているということが知れたら、日本ではハンディになってしまうのかもしれません。実際、これまで見てきた雑誌やパンフレットなどではそんなことに触れているものは見たことがありません。しかし、海外では堂々と彼女のロックミュージシャンとしての活動が取り上げられていますし、恐らく、ヘレヴェッヘも鈴木雅明氏も、彼女のそうした側面を知った上で、自分たちの演奏になくてはならない存在として共演しているに違いありません。どうか、我が国日本でも、ブラシコヴァという稀有の存在が、彼女のあらゆる活動をも込みでトータルに評価されますように。

     繰り返して言います。プロでもアマでもいいので、どなたか、ブラシコヴァを単身で招聘して下さい!






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    2019.08.15 Thursday

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      コメント
      まったく同感です。私も一度静岡で聞いてからもうゾッコン。オペラシティでも最高の出来でしたね!
      • by siegfriedkarin
      • 2012/04/10 12:41 AM
      はじめて、書き込みます。
      とても興味深く読ませていただいています。

      で、おお〜
      素晴らしい、クリッピング。
      私も、彼女の単身招聘、切望します。
      知り合いにも、もう一人私よりずっと強く願って、こっちからあいにいっちゃうくらいの友人がいます。
      早朝のクラシック番組でBCJの再放送をみていたところ、彼女の歌声を聞き、びっくり。検索してたどりつきました。
      こんな方だと知ってまたまたびっくり。
      素敵な情報、ありがとうございました。
      • by mido
      • 2015/04/30 6:15 AM
       名前 も<ハナ>は日本人に親近感が有りますよね
      • by タカハシキヨシ
      • 2019/01/30 4:15 AM
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