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【ディスク 感想】ショスタコーヴィチ/交響曲第7番「レニングラード」〜 ヴァレリー・ゲルギエフ指揮マリインスキー歌劇場管

 ・ショスタコーヴィチ/交響曲第7番Op.60「レニングラード」
 ヴァレリー・ゲルギエフ指揮マリインスキー劇場管(Mariinsky)

 →詳細はコチラ(HMV/Tower)




 ゲルギエフとキーロフ・マリインスキー歌劇場管によるショスタコーヴィチの交響曲第7番の新盤を聴きました。彼らは既にこの曲をPhilipsに録音(ロッテルダム・フィルとの合同演奏)して非常に高い評価を受けており、今回の自主レーベルでのチクルスではその録音を流用するものと思っていましたが、再録音したところを見ると、全曲再録音ということになるのかもしれません。2012年6月に録音されたようですが、ライヴとは明記されておらず、セッション録音であるようにも取れます。いつものようにSACDとCDのハイブリッド盤、収録時間は82分超という長時間記録。

 凄い。ただひたすらに凄い。そうとしか言いようのない演奏。

 まず、ド迫力の大音響という意味での凄さ。両端楽章のクライマックスでの破壊的なまでのオケの轟音。特に金管の咆哮と、強打される打楽器の衝撃音。そこにずしりとした重みのある弦楽器の音と、ナマナマしい木管楽器の響きが重なり合い、それこそ一大スペクタクルともいうべき空間ができあがっている。録音が優秀ということもあって、大編成のオーケストラを聴く喜びを満喫することのできる演奏と言えます。

 それだけならただの「爆演」ですが、常にオケの響きは洗練されていて濁らない。例えば第3楽章の清澄な響きと暑いカンタービレが共存した美しい弱音は心に響きますし、第2楽章のスケルツォでのニュアンスに富んだ表現の多様性には舌を巻きます。全体にオケの技術がアップしているように思いますし、何よりもゲルギエフの指揮ぶりから、以前の露骨なまでの下品な「煽り」は完全に消えていて、音楽の外側から無理やり興奮を作り出すのではなく、内部から感情が湧き出てくる音楽をやっているところが素晴らしい。だから、この下手をするととても皮相な印象をもたらす派手でやかましい交響曲を、とてもシリアスな音楽として、そして何よりも美しい音楽として聴かせてくれています。

 こういう演奏であれば、この交響曲に対し、他の交響曲ほどには夢中になれない私でも、我を忘れて無我夢中で聴くことができます。ショスタコーヴィチの音楽のもつほとんど無機的な強烈さだけでなく、人間の心情の最も深いところに触れる、とてもエモーショナルなものを感じ取ることができるからです。

 では、この音楽に込められた「エモーション」とは何なのでしょうか。

 愛国心でしょうか?そうかもしれません。何といっても、この交響曲は、1941年にナチス・ドイツに包囲されたレニングラードでの防衛戦をテーマにした音楽であり、「戦争から勝利」という、まるでベートーヴェンの「苦悩を通じて歓喜へ」というモットーのようなお約束のプロセスを描いた音楽です。ヨーロッパを、そして全世界を恐怖に陥れたファシズムに抵抗して、祖国を守りぬこうとしたロシア人たちの正当な戦いを音楽で表現した。

 でも、ゲルギエフの演奏を聴いていて、ショスタコーヴィチの祖国に対する愛情を感じた訳ではないし、私が「日本」という祖国への愛国心を覚えた訳でもありません。何と言っても、歌詞のある曲であるならばともかく、純粋な器楽だけによる交響曲ですから。それに、ドイツ対ソ連によるレニングラードの包囲戦に際して書かれたという、この曲の背景をまったく知らないで聴いたら、絶対に「愛国心」なんていうキーワードにはたどり着かないはずです。勿論、この曲の歴史的背景を無視する訳にはいかないのは事実としても、あまりに音楽以外の情報にとらわれすぎると、聴いた後の感想が「聴かなくても言える感想、書ける文章」になってしまってつまらないので、なるべく虚心に、「白熱教室」のサンデル教授の言葉を借りれば「無知のヴェール」をかぶって聴くようにしているので、「愛国心」などという感情が私の中で湧き起らなかったことは直視したいです。

 では、この曲を聴いて私の中で喚起されたエモーショナルなものとはどんなものでしょうか。それは、破滅的なカタストロフを目の前にした時の人間の感情なのだろうと思います。第1楽章の「戦争の主題」が違う楽器で次々と演奏されて巨大化し、どんどんクレッシェンドしていった先には破滅があり、悲劇がある。それまで機械的に反復・増殖していく何ものかが極点に達した瞬間に弾けて壊れてしまうのです。無力感、自虐、悲しみ、そして絶望に覆われた音楽が続くけれど、その後あるところから音楽は徐々に力を取り戻し、まったく新しいステージへと進んでいく。そこで聴きとることができるものは、「肯定」なのか「勝利」なのかは分かりませんが、とにかくカタストロフを乗り越えたいという強い願望、いや、絶対に乗り越えるのだという強い意志を感じずにはいられません。そして、それらは、国家とか独裁者ではなくて、「人間」への信頼と愛情に基づいたものです。だからこそショスタコーヴィチの音楽は、私たちにとってかけがえのない普遍的な価値をもったものであると私は信じることができます。

 ゲルギエフは、ショスタコーヴィチの音楽の根底にある「人間への信頼と愛情」を、ことによると他のどの指揮者よりも強く感じさせてくれました。それゆえに、私はこのゲルギエフのショスタコーヴィチの振る第7番に心底感動しました。これまで愛聴してきたディスク、例えば、バーンスタインとシカゴ響の圧倒的な演奏や、ウィッグルスワースやバルシャイらの演奏にも引けを取らないほどの傑出したものだと感じています。

 人間宣言したショスタコーヴィチの交響曲には、まだまだ私たちの気づいていない魅力がいっぱい詰まっているのだろうと思います。ゲルギエフが先頭になって、私たちの時代のショスタコーヴィチ像を築き上げてくれるものと心から期待します。

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  • 2017.03.01 Wednesday
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