Langsamer Satz

クラシック音楽のことなどをのんびり、ゆっくりとお話したいと思います
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【ディスク 感想】J.S.バッハ/ゴルドベルク変奏曲ほか 〜 イリーナ・メジューエワ(P)
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    ・J.S.バッハ/ゴルドベルク変奏曲ほか
     イリーナ・メジューエワ(P) (若林工房)

     →詳細はコチラ(HMV/Tower)





    <<曲目>>
    J.S.バッハ:
    ・フランス組曲 第5番 BWV816
    ・半音階的幻想曲とフーガ BWV903
    ・ゴルトベルク変奏曲 BWV988


    ---

     イリーナ・メジューエワの最新盤、バッハのピアノ作品集を聴きました。曲目は、フランス組曲第5番、半音階的幻想曲とフーガ、そしてゴルドベルク変奏曲。今年の9月に新潟のりゅーとぴあでおこなわれた、彼女の日本でのコンサート・デビュー15周年記念リサイタルのライヴ録音で、いつもの若林工房からのリリース。このところ、ショパン、ベートーヴェン、シューベルトで本当に素晴らしい演奏を聴かせてくれている彼女の弾くバッハを、是非聴きたいと願い続けてきたので、これはまさに待望のアルバムです。

     私は今までたびたび彼女のディスクや演奏会に接してきて、彼女の演奏に対してとても強い愛着を感じてきましたが、彼女が満を持して取り組んだバッハを聴き終えたとき、私の中で、メジューエワというピアニストに対して、もうほとんど尊敬の念としか言いようないものが生まれているのに気づきました。私はただの音楽ファンで、ピアノは猫ふんじゃったを弾くくらいしかできないのに尊敬なんていうのも変な話なのですが、でもやっぱり、私の中にある彼女への敬意は否定することができない。

     私は、彼女の何に尊敬の念を感じているのでしょうか。

     まず何よりも、彼女の「謙虚さ」。これについては、これまで聴いてきた演奏会やディスクの感想でも書いてきましたが、これこそが彼女の音楽の魅力。「私が私が」というエゴのない音楽は、清々しく気高い。つい数日前まで、国政選挙があって、「私が私が」「俺が俺が」とのべつ主張しまくる人たちの姿を見てきた私にはとても眩しい。

     次に、彼女が「成長を続けている」ということ。もともとが素晴らしい力量をもったピアニストで、キャリア的にはもう中堅どころとなり、十分な経験を経てきた人ですが、先ほど挙げた「謙虚さ」を原動力として、どんどん「成長」を続けているというところが素敵です。今ままでに得られたものを切り売りすることで満足せず、さらなる高み、深みをめざし、自らに負荷をかけながらしっかりと歩みを続ける人の足取りを感じる。

     そうした彼女の姿勢に、プロとしての自分の職業への厳しいスタンスが垣間見えて、私は尊敬の念を抱かずにはいられないのです。

     それから、彼女の尊敬したい点がもう一つあります。それは、常に最良の意味で「シンプルさ」が目指されていること。勿論、ゴルドベルク変奏曲などはとても大きくて複雑な音楽ですが、それ以外の「複雑さ」が一切感じられないのです。どの音にも、その強弱や音価、タッチなどあらゆるパラメータにおいて、常にどうしてそういう風に弾かれたかが合理的に理由が説明できそうなくらいに明快であり、そこに一切の疑問の挟みようがない。そういう意味での「シンプルさ」です。

     こういう「シンプルさ」って、実は、今、自分の仕事で特に注意して目指しているところなのです。私の生業であるソフトウェア・エンジニアリングの世界では、アウトプットの複雑度を排除するのは、品質向上には欠かせませんが、メジューエワがバッハの音楽でやっていることと実は同じ行為に思えるのです。いかにも難しいことをやっているかのように見せて喝采を得るという誘惑に負けず、ただ音楽に奉仕し、その音楽そのものの美しさだけを純粋に聴き手に伝えることにこそ注力する。それにより、他の誰もがアクセスしやすく、自分なりの視点で物事の本質に触れることができる。自分の仕事でまさにこうしたい、こうありたいと私が常日頃思っているのと同じことを、畑は違えど、メジューエワがやっている。そして、「黄金のシンプルさ」をもったバッハを聴かせてくれている。ああ、自分の目指しているものは決して間違っていないのだ、メジューエワを見習って、自分の目標を達成できるようにしたいと思いました。

     というような、まったく我田引水の感想に過ぎませんが、そんな風に私はメジューエワの弾くバッハを聴き、そして、心の底から深い感銘を受けました。個々の曲について感想を書く余力がないですが、再録となるフランス組曲も、期待のゴルドベルクも素晴らしかったですが、半音階的幻想曲とフーガにはノックアウトされました。厳格なフォルムの中でエモーショナルま動きをまとった音が限界まで自由に振舞うさまの異様なエントロピーの高さには背筋が寒くなるほど。凄みさえ感じました。勿論、これはメジューエワ自身にとってはスナップショットでしかなくて、これからもっと凄いバッハを聴かせてくれるに違いないですが、でも、私の中では、このバッハアルバムは彼女が到達した大きなマイルストンの一つであるような気がしますし、私自身、仕事をやっていく上での重要なヒントを与えてくれるものとして、とてもとても大切なアルバムになると思います。そして、ますますメジューエワへの尊敬の念が高まっていきます。弟子入りしたいくらいです。ほんとに。

     結論。メジューエワは私の心の師である。
    | nailsweet | イリーナ・メジューエワ | 03:22 | comments(1) | trackbacks(0) |
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      おはようございます。2年ほど前コメントさせて頂いた者です。 12月23日、立ち寄ったCDショップで、カバーの絵に引かれ手に取ったのがこのディスクです。店主が「たまたま今、流れているのがこのディスクですよ」と教えてくれ聖夜にぴったり合った音色に即購入。
      メジューエワは日本びいき日本語も流暢で活動も日本中心の演奏家と知っていましたが、テレビで見た(聴いた)時は、女優の有森也実さんに似た可愛い華奢な見た目に反して男っぽい骨太な力強い演奏だったかと記憶しています。ですが、このディスクを聴いてこの人は自分を曲に合わせる事の出来る、良い意味で『自分の色』を出さない演奏家だなと…
      管理人さんの書かれた事、ひとつひとつが納得できます。
      毎日聴いておりますが全く飽きませんね。大満足のアルバムです。
      | 新参者 | 2012/12/29 10:28 AM |









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