珠玉の小品 その3 〜 グリーグ/過ぎた春
2007.08.31 Friday
グリーグ/「2つの悲しい旋律」から「過ぎた春」
ポール・トルトゥリエ指揮ノーザン・シンフォニエッタ
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今日書くのは、グリーグの「2つの悲しい旋律」から「過ぎた春」です。もともとは歌曲だったのを弦楽合奏に編曲したものです。ピアノ編曲版やアカペラ合唱版もあり、グリーグ自身気に入っていた曲のように思えます。
曲のタイトルは英語では"Last Spring"と訳されています。「過ぎた春」「最後の春」「晩春」などいろいろな和訳が見られ、ヴィニエの原詩からすると、「最後の春」の意味合いが強いようですが、曲のイメージだけから言うと、過ぎ去った春を目を閉じて静かに回想する、という感覚が強いので、私には「過ぎた春」というのがしっくり来ます。
グリーグの弦楽合奏のための曲のどれもがそうであるように、いつも透明感を失わない、少しひんやりとした感覚の弦合奏のハーモニーと、ノルウェーの民謡を思わせるようなシンプルな旋律が印象的な曲です。決して声高な主張もなければ、甘ったるい感傷の涙があるわけでもなく、とても穏やかで、どこか寂しげな「春への想い」がゆったりと歌われていきますが、2回目のリフレインでのトゥッティでは、なだらかなクレッシェンドを経て、熱い思いを一気に解放しますが、それもまたすぐに鎮まっていきます。
本当はあちこちで生命力に満ち溢れているはずの春なのに、なぜか透明な哀しみを感じてしまう感性が私にはとても魅力的です。カサカサに乾いてしまった心に、水を注いでくれるような、そんな奥に秘めた優しさに触れて、私の心は潤いを取り戻して生き返るのです。
演奏は、LPでトルトゥリエ指揮ノーザン・シンフォニエッタのものを愛聴していました。しかし、いつになってもCD化されず(Diskyレーベルで出たそうですが)、長らく聴くことができずにいましたが、一昨年、ようやく輸入盤で復活しました。CDショップでそのCDを手にした時は嬉しさのあまり、もう1枚買いそうになりました。今年に入ってから、国内盤でも懐かしいオリジナルジャケットで再発売されました。ショップのポップ広告のつけられ方を見ると、そこそこ評判が良かったのではないかと思います。
トルトゥリエの演奏は、とても透明で硬質な音色と、節度を保った清潔な歌い口が特徴で、まさにこの曲のイメージに最も合う演奏なのです。自分の弱さにめげそうになったとき、言いようのない孤独に耐え切れなくなったとき、この演奏を聴いて何度救われたことかわかりません。これは一生つきあっていく演奏なのだろうと思っています。
このほかには、ケーゲルの胸がはりさけそうなくらいの慟哭の演奏を始め、ヤルヴィ親子の演奏どちらも素晴らしいし、オーマンディやバルビローリも好きです。歌でもボニーやヒルスティ、そしてシセル・シルシェブーも本当に素晴らしい。たくさん好きな演奏があります。
でも、私にはこのトルトゥリエ盤が、何よりもかけがえのない演奏です。今日もこの演奏を聴いてから寝ようと思います。