珠玉の小品 その12 〜 カスキ/前奏曲(管弦楽版)

2007.10.31 Wednesday

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    カスキ/前奏曲Op.7(管弦楽編曲版)
    レイフ・セーゲルスタム指揮ヘルシンキ・フィル

    試聴はコチラで

     ヘイノ・カスキ(1885-1957)は、シベリウスと同じ日に亡くなったフィンランドの作曲家。

     つい先日(9/20)没後50年の命日を迎えた訳ですが、ピアノ曲以外はほとんど知られていないせいか、当ブログにコメントを頂いたこともあるsuomestaさんの「スオミ・フィンランドの音楽&文化」で、舘野泉氏の弾くピアノ作品集のCDが取り上げられたくらいかもしれません。ただ、彼のピアノ曲には結構人気はあるようで、楽譜が容易に入手できるようですし、舘野氏のCDは現役で発売されていて、ミクシィにもコミュがあったりもします。

     さて、この前奏曲も、もともとはピアノのために書かれた曲ですが、セーゲルスタムの/ヘルシンキ・フィルの"Scandinavian Rhapsody"というアルバムには、管弦楽に編曲されたバージョンが収められていて、私はこれを非常に愛聴しています。

     この曲の魅力は、とにかく旋律が美しいの一言に尽きるでしょうか。
     
     冒頭から、うつむき加減の、でも、情熱を帯びた「憧れ」のような旋律があふれ出てきて、作曲者の心のうちを打ち明けられたような、そんな想いにかられます。聴いていると、心なしか体温が上昇するのを感じますが、やがて、高まった思いを静かに回想して思いに耽るような佇まいになり、最後は柔らかく曲が閉じられます。原曲のピアノ版のライナーノートには、この曲に対し「宗教的雰囲気のある曲」という評がありますが、確かに、その沈潜には「祈り」の雰囲気を感じます。

     私のお気に入りの指揮者セーゲルスタムは、この曲でも、たっぷりオケを鳴らして熱っぽいロマンを歌い上げています。フィンランドの曲にしては「地球温暖化」を思わせる解釈ですが私は大好きです。(彼の師であるパヌラ指揮のナクソス盤はあっさりしていてこちらが本筋かも・・・)

     このオケ版、日本で演奏されたことはあるのでしょうか?アンコールか何かでやったら、いい感じで演奏会を締められそうな気がします。もっとも、曲の題名は「前奏曲」ですけれど・・・。

    私の愛聴盤 その3 〜 モーツァルト/交響曲第29番 ベーム/VPO

    2007.10.26 Friday

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      モーツァルト/交響曲第29番イ長調K.201
      カール・ベーム指揮ウィーン・フィル


       私の愛聴盤、また初発がLPの古いディスクです。
       モーツァルト18歳の時の交響曲を、録音当時86歳のベームが指揮した演奏です。期せずしてベーム死去直後に追悼盤として発売されたものです。

       この曲の冒頭、本来は爽やかで活気のある快活な曲として演奏されるべきですが、ベームは非常にゆっくりとした一歩一歩踏みしめるようなテンポで演奏しています。それは、70年代のDVDでの映像や日本でのライヴとも共通する解釈ですが、この録音では、彼の死の1年前のスタジオ録音ということもあるのでしょうか、全体にわたって、より落ち着きのある深沈たる音楽がゆったりと展開されます。そして、ウィーン・フィルの純度の高い美しい響きやしなやかな歌がとても魅力的です。

       抜けるように青く高い秋空を見上げていたら、ゆっくりとぽっかりとした雲が流れている、そんな景色を思わせるようで、私は秋になるとよく聴くディスクです。

       こんなベームの解釈もいまとなってはロマン的に過ぎて「誤り」とさえ思えますが(ベームの生前、彼が「ロマン的」と評されたことは皆無だったと記憶しますけれど・・・)、音楽的な魅力についてはまったく別の話で、とても素敵な演奏で大好きです。もうこんなモーツァルトを演奏する人もいないだろうなあ・・・。

       因みに、上記のCD、カップリングの「フリーメイソンのための葬送音楽」、胸をかきむしられるような慟哭の演奏で、これも私の大好きな演奏です。ベームの命日にこの曲を聴いて老巨匠を偲ぶ、という機会も多いです。

      バレンボイム/ベルリン国立歌劇場 「トリスタンとイゾルデ」

      2007.10.18 Thursday

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         男女間の愛には、時として「痛み」が伴うことがあります。それが「道ならぬ愛」であるなら尚のこと、強烈な「痛み」が生じるはず。では、その「痛み」もやはり「癒し得るもの」なのだろうか?しかも「死」ではなくて「生」の中にあっても・・・。

         今日のバレンボイム/ベルリン国立歌劇場の「トリスタン」の公演を見ながら、私はそんなことを考えていました。

         私は、このオペラの中のあちこちに「痛み」を感じます。

         「道ならぬ愛」の袋小路にはまってしまったトリスタンとイゾルデの「痛み」、娶ったイゾルデと忠臣トリスタンの情事の現場を見てしまったマルケ王の「痛み」。彼らの痛みは、トリスタンが死に、イゾルデが死に導かれることで漸く解放される。

         今まで聴いてきたディスクや、以前見たアバド/BPOの来日公演でのナマでも、その「痛み」を、まさに痛切に感じながらこのオペラに接してきました。

         しかし、今日の公演では、その「痛み」は十分に感じるものの、私が今まで感じていたものとは、何か質が違うように思いました。

         その「痛み」が、既に「癒し」を内包したもののように感じたのです。優しい表情をした「痛み」とでもいうのでしょうか。

         既に愛し合っていたトリスタンとイゾルデは、媚薬をきっかけに互いの「愛」を意識し、「闇」の世界へと迷い込み、愛の官能に溺れると同時に「痛み」に悶え苦しみはするものの、いずれは「死」によって二人の「道ならぬ愛」が成就することを知っていた。死を恐れない彼らにあっては、「痛み」はそもそも癒し得るものという意識なのだから、殊更「痛み」そのものを生々しく表現する必要もないのということなのでしょうか。クプファーの演出が、簡素な舞台装置で余り激しい動きをつけない演出だったので、「痛み」を生々しく感じる場面が少なかったこともそう感じた一因だと思います。

         こじつけかもしれませんが、クプファーのインタビュー記事にあったとおり、登場人物の誰もが「痛み」の原因となるもの、自分たちを抑圧するものに抗うことなく、自分たちの運命を受け容れてしまっていたことが表現されていたのかという気がしています。

         私は、もう少し「痛み」を深く味わった上で最後の「愛の死」を聴きたかったですが、こういう「トリスタン」は初めてだったので、貴重な体験でした。

         演奏そのものは、「超一流の平凡」といいたいところでした。

         バレンボイムがオケから引き出した響きは、繊細でありながら、しかも、いつも豊かさを失わなわない上質なもので、ワーグナーの書いた魔法のような音の「綾」をたっぷり聴かせてくれました。特に、第3幕の前奏曲のヴァイオリンの透き通った美しい音色は絶品。管楽器の響きも美しく、しかもパワーも十分で、本当に素晴らしいオケだと思いました。バレンボイムも、第3幕のトリスタンとイゾルデの再会の場面に圧倒的なクライマックスを置き、全体のドラマの輪郭をはっきりと見せてくれたのもまさに名匠の技だと思います。

         歌手では、主役の二人、マイヤーのイゾルデ、トリスタンのフランツも悪くなかったですが、パペのマルケ王は本当に素晴らしかったです。トレケルのクルヴェナールも良かった。

         しかし、まったく贅沢なことを言わせてもらうならば、10年前に彼らが「ヴォツェック」で聴かせてくれたような、「一期一会」とも言うべき入魂の演奏とは少し距離があったのが残念です。勿論、ルーティン・ワークとは一線を画する超一流の演奏だったのですが、「お望みならアンコールでもやりましょうか?」とでも言いたげな、余裕綽々のバレンボイムのカーテンコールでの姿を見ながら、ああ、この人たちは、これくらいの質の公演をいつもやってるんだなあと思いました。これだけの公演を見せてもらって罰が当たりそうですが、「モーゼとアロン」にしとけば良かったかな?なんて思ったりして。

         メイド・イン・ジャパンのオペラで、これレベルの上演を「平凡」と呼べるような、そんな日はいつ頃になったら来るでしょうか・・・・。

        私の愛聴盤 その2 〜 グリーグ/管弦楽曲集 スイトナー

        2007.10.16 Tuesday

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          グリーグ:管弦楽曲集
           組曲「十字軍の兵士シグール」、叙情組曲 〜 夜想曲、小人の行進
           ノルウェー舞曲(全4曲)、組曲「ホルベアの時代より
           オトマール・スウィトナー指揮シュターツカペレ・ベルリン

          ※上記サムネイルをクリックした先でCDが試聴・購入できます。
           "試聴10"以降が「ホルベア」組曲です。

           私の愛聴盤。これもLP時代からずっと聴き続けてきた愛着のある盤です。特に「ホルベア」を偏愛しています。

           この曲、私は大好きなので、結構いろいろな演奏を聴いてきましたが、結局は、この「初恋」のスイトナー盤に戻ってきてしまいます。まさに詩人ホルベアが生きた古(いにしえ)の時代の優雅な舞曲を、味わい深い語り口で、そして古雅で豊かさを失わない美しい音色で楽しませてくれるからです。

           「前奏曲」の胸の弾むような弦のギャロップの雄弁さ、「サラバンド」での心の奥底から湧き出てくる静かな思いの豊かさ、「ガヴォット」の優美としか形容のしようのない古雅な雰囲気の美しさ、「エア」での泣き濡れたかのような心情告白の身を切るような切実さ、「リゴードン」の楽しくてでも節度を失わない「品格」のある遊び、どれも、他の演奏では、スイトナー盤ほどには私を満足させてくれません。

           カップリングの曲も、「夜想曲」は熱いロマンに満ちたすばらしい演奏ですし、ノルウェー舞曲の楽しさ、十字軍シグールのドラマチックな表現など、いずれも第一級の演奏ばかりがおさめられていて、聴いていて心が癒されるディスクです。トルトゥリエの「過ぎた春」や、ギレリスの「抒情小品集」などと並んで、私の大切なグリーグの愛聴盤としての位置はこれからもずっと揺るがないアルバムだと思います。

           このディスク1枚あるだけで、スイトナーという指揮者がこの世に存在してくれたことを、心から感謝したいと思っています。そう、神様に対して、でしょうか。

          私の愛聴盤 〜 ストコフスキーのドヴォルザーク「弦セレ」

          2007.10.15 Monday

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            ・ヴォーン=ウィリアムズ/タリスの主題による幻想曲
            ・パーセル(ストコフスキー編)/歌劇「ディドとエネアス」〜ディドの嘆き
            ・ドヴォルザーク/弦楽セレナードホ長調Op.22
            レオポルド・ストコフスキー指揮ロイヤル・フィル


             もう20年くらい前のことですが、FM大阪の深夜番組で、「デーヤンの音楽横丁」というクラシック番組が放送されていました。「横丁」のご隠居デーヤンこと音楽評論家の出谷啓氏と、横丁に遊びに来る"よっさん"こととプロデューサー吉川智明氏が、コテコテの関西弁でクラシック音楽のCDやコンサートの話題をしゃべる1時間番組でした。初心者からマニアまで幅広く楽しめた好番組で人気も高く、私も毎週聴いていました。(その番組の前の枠が、故中島らも氏の「月光通信」というこれも名番組でした)

             その番組の中で出谷氏秘蔵のレア盤を紹介する回があって、掲題のストコフスキーのアルバムの中からパーセルの「ディドの嘆き」が放送されました。また例によって暗くて哀しい曲ですが、演奏が「これがあのストコ?」と思うくらい、しみじみとした味のある素晴らしい演奏でした。心から感動しました。

             これは、ストコフスキーが亡くなる2年前、1975年に93歳で録音したレコード(LP)なのですが、なぜかデスマールという超マイナーレーベルに録音したものなので、日本では一度も発売されることがなく「幻の名盤」になってしまっていたのです。当時高校生だった私は、番組をエアチェックしたパーセルを何度も聴いていましたが、私の好きなドヴォルザークの弦楽セレナーデも併録されているということで、どうしてもその「レア」なオリジナルLPが欲しくなり、輸入LP専門店に行って探してみました。そしたら何とその「幻」のLPが売られていたので、まさに狂喜乱舞して買いました。帰り道、結構雪が降っていたのですが、「雨に唄えば」のジーン・ケリーさながら、傘もささずに「ルンルン気分」で足取り軽く帰宅したのをよく覚えています。

             その後、このパーセルやドヴォルザークを何度聴いたか分かりません。あの派手でスペクタクル好みのキワモノ指揮者のイメージの強かったストコフスキーが、何の混じりけもない澄み切った音楽をやっていることが驚きでした。ドヴォルザークの第4楽章のラルゲットの静かでしみじみした語り口など、なんとも味わい深く、人生を豊かに重ねてきた人の話を聞いているような気分になります。高校から浪人時代、まさにLPが擦り切れるまで聴きこみました。

             その幻のLPの原盤を英EMIが買い取ってCD化されて発売されたのは9年ほど前でした。 私にとっても大変うれしい「再会」でした。今も時折このCDを取り出しては老巨匠の「語り」に耳を傾けます。音楽好きの知人にも特に「ディドの嘆き」はダビングして紹介したりもしています。

             しかし、残念ながら、そのEMI盤CDも現在は廃盤の模様で、アマゾンでは中古品が7000円近くもしてしまうようです。こんな素晴らしいアルバムが入手しづらいなんてもったいないなあと思います。上記のリンクからアマゾンのサイトでは試聴ができます。

            http://www.amazon.co.jp/dp/B000009OQE

             特に「ディドの嘆き」やドヴォルザークの第1楽章をお聴き頂ければ、私の「もったいない」に賛同して下さる方もおられるのでは?と思うのですが・・・。EMIから国内盤ででも発売されないもんでしょうかねぇ・・・。

            珠玉の小品 その11 〜 チャイコフスキー/10月

            2007.10.14 Sunday

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              チャイコフスキー/「四季」〜10月(弦楽合奏版)
              ダヴィッド・ゲリンガス指揮南西ドイツ室内管弦楽団

              ※上記サムネイルをクリックしてCDを購入できます。

               10月も半ば近くなりました。金木犀が香り、空気が澄んで空も高く、秋らしくなってきました。木々の葉の色の微妙な変化や、まだ明るいうちから聴こえる虫たちの声に気づくたび、心の色もそれに合わせて少しずつ変わっていくような気がします。清々しく透明な気持ちや、何かが喪われていく淋しげな気持ちが交錯します。

               ・・・なんて書くと、ちょっとおセンチに過ぎるでしょうか。

               今日とりあげるチャイコフスキーの「10月」はピアノ曲集「四季」の中の曲。まさにおセンチの極致の哀しげ、淋しげな音楽です。私は原曲のピアノ曲のCDは持っておらず、上記の弦楽合奏版しか持っていませんが、この名チェリストのゲリンガス指揮の演奏、「溺愛」しています。ヴァイオリンやチェロのソロの対話の美しさはため息が出るほどですし、柔らかく優しい弦楽の伴奏も、金木犀の香りのように心の襞にすっと入り込んできます。(この弦楽合奏版のCD、曲間に詩の朗読が入ります)

               併録の「夜想曲」「メロディ」などのチェロと弦オケの曲も素敵な演奏です。

               それにしても、この曲、本当に何と哀しげな10月なんでしょうか。それがロシアの秋なんでしょうか。行ったことのない私には分かりません。

               ところで、この「10月」の音楽をバックに素晴らしいアニメを作った人がいます。
               「話の話」「霧に包まれたハリネズミ」などで有名なアニメ作家ユーリ・ノルシュテインです。彼がまだ若い頃の古い作品ですが、とても美しくて見入ってしまいます。このアニメ全編をYouTubeで見られます。

              http://www.youtube.com/watch?v=mG-FziMRum0

              また、DVDでも発売されています。


              ※上記サムネイルをクリックしてDVDを購入できます。

               これから、公園で遊ぶ子供たちのように秋をいっぱい見つけたいものです。

              珠玉の小品 その10 〜 フェルナンデス/バトゥーケ

              2007.10.10 Wednesday

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                フェルナンデス/バトゥーケ
                レナード・バーンスタイン指揮ニューヨーク・フィルハーモニック

                ※サムネイルをクリックすると試聴・購入可能です("試聴3"がバトゥーケ)

                 この「珠玉の小品」ではしっとりした曲ばかりを取り上げてきましたが、今日は、毛色のまったく異なる元気な曲を取り上げることにしました。

                 オスカー・ロレンツォ・フェルナンデス(1897-1949)という作曲家は、 リオデジャネイロ生まれ、詩人・教師としても知られ、音楽家になる前は化学を専攻していた人。彼が1930年に書いた3部からなる管弦楽組曲"Reisado"の第3部が「バトゥーケ」という曲で、「バトゥーケ」とはアフリカに起源を発する踊りの様式なのだそうです。太鼓に合わせて足踏みやら手拍子やら歌いながら踊るとのことです。

                 この曲を私が知ったのはバーンスタインの「ラテン・フェスティバル」というアルバムを通してです。コープランドの「エル・サロン・メヒコ」やキューバ舞曲を始め、ヴィラ=ロボスの「ブラジル風バッハ第5番」(独唱はダヴラツ)、チャベスの「シンフォニア・インディア」など楽しい音楽満載のアルバムとして有名です。映像で残っている「青少年のためのコンサート」のシリーズでも取り上げられた曲があります。

                 中でもこのフェルナンデスの「バトゥーケ」は、弦のオスティナートに乗って、管楽器が楽しげで野性味溢れる音楽を繰り広げていて爽快、聴いて一度で気に入りました。途中で出てくるトランペットのソロのノリの良さはゴキゲンです。イヤなことを忘れて「踊らにゃソンソン」という気分にさせてくれます。録音当時45歳のレニーのまさに快調に飛ばす演奏はとてもエキサイティングで、曲の終盤のアッチェランドもこちらの心拍数を上げるのに十分なスリリングさです。

                 誰が聴いても幸せな気分になれる曲で、演奏会のアンコールでやったら大ウケ間違いなしと思いますが、まだ私はナマでこの曲を聴いたことがありません。(CDは女性指揮者リン・ウィルソン指揮シモンボリバル響のDorian盤等あり)どうやら貸し譜は容易に入手できるとのことで自分が所属していたオケで推薦したのですが、あえなくブラームスのハンガリー舞曲に惨敗してしまいました・・・。

                 最近注目のドゥダメル君あたりの演奏でナマを聴いてみたいです!!

                ベートーヴェン/後期弦楽四重奏曲集(弦楽合奏版) 〜 トネセン/カメラータ・ノルディカ

                2007.10.06 Saturday

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                  ベートーヴェン/後期弦楽四重奏曲集(第12〜16番、大フーガ)
                  テルエ・トネセン指揮カメラータ・ノルディカ


                   ベートーヴェンの後期の弦楽四重奏曲の弦楽合奏版というと、何と言ってもバーンスタイン/VPOの第14,16番が有名で、その他では、第12番がペライア盤、第13番はプリマヴェーラ・アンサンブル(蘭Partridge盤)、第14番はプレヴィン盤やヴェーグ盤、ウンジャン盤などがあり、大フーガが様々な指揮者の演奏が出ていました。

                   今回、ノルウェーのヴァイオリニスト・指揮者テルエ・トネセンが、スウェーデンの手兵カメラータ・ノルディカを指揮して12番から16番まで全部録音しました。以前コリン・ディヴィスが同様のディスクを録音済みと言っていたのに未発売なので、第15番の弦楽合奏版というのは今回これが「世界初リリース」なのではないかと思います。ライナーノートではどれくらいの編成で演奏しているかは不明なのですが、このオケのHPでは17名の団員を擁しているようで、もしそのメンバーで演奏したのなら、6-4-4-2-1程度の編成で演奏したものと考えられます。

                   指揮のトネセンというとBISからノルウェー室内管と録音したグリーグの弦楽作品集が出ていて、私もとても温かみのある演奏が気に入ってLP時代から愛聴していましたが、それ以来、本当に久々に彼の録音を実際に聴きます。そして、今日このCDを入手して、まず第15番と第16番を聴きました。
                  大変素晴らしい演奏だと思います。とても感動しました。

                   第15番というと、私はどうしてもあの感動的な第3楽章に関心が行ってしまいます。大病から快癒したベートーヴェンの「病癒えし者の神への聖なる感謝の歌」ですね。リディア旋法を用いた静謐な瞑想と、一種の「軽み」を感じる率直な喜びが交錯する音楽ですが、前者の「瞑想」がまさにガラス細工のように繊細な響きを保って演奏されていて、まるで教会の聖堂にステンドグラス越しに降り注ぐ光のように美しいと思いました。ニ長調の活力に満ちた「喜び」も厚化粧にならぬ程度に厚みを増した響きが魅力的です。また、全体に引き締まったテンポできびきび音楽を進めていて(演奏時間は41分程度)、大変快いアンサンブルの妙を聴かせてくれて見事な演奏です。

                   それから、「瞑想」の部分、クリアな音像ながら不思議な音場を感じさせる録音も魅力的で、マイクのセッティングや、奏者の配置など写真で見たいなあと思ったりもしました。

                   第16番も第15番とほぼ同様の演奏です。演奏時間は約23分。バーンスタインがまるでマーラーの音楽のように演奏した第3楽章ラルゴは、さすがに早めのテンポで(約7分、バーンスタインは約11分)すっきり演奏されていますが、それでもビブラートをかけた温かい弦の響きを堪能できます。

                   ビブラートと言えば、どちらの曲もその音楽の性質上、ノンビブラートで表情を殺して演奏している場面も結構ありますが、古楽器奏法とはほとんど無縁で過度にアグレシッブな表現に走ることもなく、ベートーヴェンの最晩年の音楽の素晴らしさを「違った角度から」再認識させてくれます。残りの12〜14番の演奏を聴くのが今から楽しみでなりません。

                   今後、ベートーヴェンの後期弦楽四重奏曲を聴きたいと思ったとき、でも、オリジナルの編成での演奏の「厳しさ」がきついと感じるときには、このディスクを引っ張り出して聴くだろうと思います。

                  行かなかった演奏会への後悔

                  2007.10.03 Wednesday

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                    アファナシエフ

                    ・シューベルト:即興曲集 Op.90 D899より 第1番 ハ短調
                    ・シルヴェストロフ:オーラル・ミュージック
                    ・シルヴェストロフ:サンクトゥス/ベネディクトゥス
                    ・シューベルト:即興曲集 Op.90 D899より 第3番 変ト長調
                    ・シューベルト:即興曲集 Op.142 D935より 第2番 変イ長調
                    ・シューベルト:3つのピアノ曲 D946より 第2番 変ホ長調
                    ヴァレリー・アファナシエフ(ピアノ)
                    2007/10/1(月)トッパンホール


                     10/1の上記の演奏会の感想を書こうとしているのではありません。10/2になってから上記の演奏会が行われたことを知ってがっかりしたんです。

                     シルヴェストロフの音楽については先日ECMの新譜について書きました。最近俄然私の中で注目度急上昇中の作曲家です。しかも、私の大好きなアファナシエフがシューベルトと共に、シルヴェストロフをとりあげるというのです。シルヴェストロフの音楽にはあからさまなシューベルトの音楽とのリンクがあります。何という素晴らしいプログラミングでしょう。

                     ああ、どうしてこんな興味深い演奏会に気づかなかったのか。悔やんでも悔やみきれません。

                     その代わり、というわけではないですが、川崎でおこなわれるBCJの「ロ短調ミサ」を聴けることになりました。また、バレンボイム/ベルリンの「トリスタン」も残席があったので行くことにしました。やはりナマの音楽を聴かないと、心が枯渇してしまいます。

                     ああ、それにしても、アファナシエフ聴きたかった・・・・。

                    珠玉の小品 その9 〜 M.グールド/エレジー

                    2007.10.03 Wednesday

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                      イスラエルのメロディ
                      モートン・グールド/エレジー TVドラマ「ホロコースト」より
                      アラン・ヘザーリントン指揮シカゴ弦楽アンサンブル


                       1978年10月に放送されたアメリカNBCのTVドラマ「ホロコースト」は、当時小学生だった私も見た記憶がありますし、
                      その前に放送された「ルーツ」(クンタキンテ!)ほどではないにせよ、放映の翌日にはクラスでもかなり話題なっていたのを覚えています。

                       そのドラマの内容はほとんど覚えておらず、メリル・ストリープが出演していたなどというのも今さっき知ったような状況ですが、その音楽を担当していたのがモートン・グールドだったということは覚えていました。

                       1992年に発売された「イスラエルのメロディ」というアルバムは、本当はブロッホの作品を聴きたくて買ったのですが、ここに収められたグールドの「エレジー」の弦楽合奏版がとても印象に残りました。実はこの曲はドラマ音楽作曲の後に追加された曲だということなのですが、陰惨なドラマが終わった後、エンディングテーマとして使えそうな静かな音楽です。アウシュヴィッツの敷地に育った草がそよそよと風になびいているのを見るような風情の音楽で、そこにこめられた想いは、哀しさでも、祈りでもなく、ただ虚しさ、無力感のようなものに支配されたようなものに思えます。犠牲者のことをただひたすら無心に追憶しているような人の姿が見えます。

                       あまりしょっちゅう聴きたいと思う種類の音楽ではありませんが、でも、いつまでも記憶にとどめておきたい音楽だと思っています。

                       DELOSから出ているシュヴァルツ指揮の映画音楽集では、この曲はトランペットでメロディが演奏されていますが、私はこの弦楽合奏版でこそこの曲の美しさが際立つと感じています。最近入手困難なアルバムだそうで、誰かが新録音しないものかと鶴首しています。
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