私のシューベルティアーデ(16) 〜 プレガルディエンの「冬の旅」(室内楽版)
2008.03.26 Wednesday
・シューベルト/歌曲集「冬の旅」D.911
(ノーマンド・フォゲット編曲室内楽伴奏版)
クリストフ・プレガルディエン(T)
ジョゼフ・ペトリック(アコーディオン)
ペンタドル(管楽アンサンブル)
ATMA Classique
プレガルディエン3度目の「冬の旅」の録音は、カナダのオーボエ奏者フォゲット編による室内楽編曲版です(過去、ピアノフォルテ伴奏によるオリジナル版と、ツェンダー編曲版の2度録音)。この2007年発売のカナダATMA盤は、ArkivMusicのカタログを見ていたら偶然見つけたので即注文、今日届いたので早速聴いてみました。
この版の第一の特徴は、まず室内楽伴奏の楽器編成のユニークさです。具体的に言うと、フルート(ピッコロ持替)、クラリネット、オーボエ、ホルン(バロックホルン持替)、バスーンの5人の管楽アンサンブルと、アコーディオン奏者の計6名の伴奏となっています。ただし、ツェンダー版のような「翻案」はなく、ほぼ原曲のピアノ伴奏譜を忠実に編曲しています。ピッコロの使用もあり音域も広いですし、どこか線的でスリムな響きが現代的なテイストを持っていますが、全体的にはあたたかく柔らかな音色感のある編曲になっていて耳に心地よいです。一つ変わっていたのは、「宿屋」で、管楽アンサンブルの面々がハミングでハモりながら伴奏をつけているところでしょうか。うらぶれた宿屋のイメージが沸き起こって面白かったです。そして、伴奏の主体となって活躍するアコーディオンがなかなかいい味を出しています。
それから、この版のもう一つの特徴は曲順です。もともとシューベルトが原作のミュラーの詩の順番を変更していたのを、原作通りの順番に戻して演奏されているのです。従って、「菩提樹」の次にいきなり「郵便馬車」のあの角笛の響きが鳴り響くのでかなりびっくりします。その後も、オリジナルのキーのまま曲順が結構入れ替わっていて頭が混乱してきます。編曲者は原作の「ストーリー」を尊重したかったんでしょうけれども、私には違和感があり、やはりシューベルトが調性を考慮して採用した曲順を尊重すべきだったんじゃないかと考えます。
正直言うと、こうしたアレンジと曲順によって再構成された「冬の旅」が一体何を意図して作られたのかというと、結局のところ私にはまだよく呑み込めていません。ピアノ伴奏で聴く「極北の音楽」のイメージが後退して、どこかあたたかい希望を感じさせる音楽になっていることから、「地球温暖化」を感じてしまいます。その温暖化の影響で、辻音楽師のそばを通り過ぎた主人公が、その後解けた氷の洪水に流されたり雪崩に会ったりして死んでしまうのか、はたまた彼岸の世界から救われて生還してくるのか、そこは聴く人それぞれのファンタジーに委ねられているのでしょう。・・・邪道な感想でしょうか。
さて、プレガルディエンの歌は、最近聴いたシューマンとヴォルフの歌曲集(ヘンスラー)で声の衰えを感じさせていたので少し危惧がありましたが、以前ほどではないにせよ彼本来の瑞々しい美声が戻っていて安心しました。そして、この世での居場所を失ってさまよう若者の狂気と絶望を、前述のようなあたたかみを感じさせる伴奏にのって、血の通った優しさで包み込むような歌を聴かせてくれて、とてもいい歌だと思います。改めてプレガルディエンの実力を思い知った気がします。伴奏も、技術的・音楽的にクセのない演奏で、とてもレベルの高い音楽を聴かせてくれていて良かったです。
というように、編曲に若干の疑問符はありましたが、好奇心を十分に満たしてくれる面白いアルバムでした。
最近、私のシューベルト・アンテナが高くなったからかもしれませんが、ピアノ・ソナタにせよ、歌曲にせよ、シューベルトの新盤が結構多く出ているような気がします。今を生きるピアニストや声楽家を魅了し続けるシューベルトの音楽のもつ「力」が何なのか、彼の音楽を聴きながらもっと探っていきたいと思っています。
(ノーマンド・フォゲット編曲室内楽伴奏版)
クリストフ・プレガルディエン(T)
ジョゼフ・ペトリック(アコーディオン)
ペンタドル(管楽アンサンブル)
ATMA Classique
プレガルディエン3度目の「冬の旅」の録音は、カナダのオーボエ奏者フォゲット編による室内楽編曲版です(過去、ピアノフォルテ伴奏によるオリジナル版と、ツェンダー編曲版の2度録音)。この2007年発売のカナダATMA盤は、ArkivMusicのカタログを見ていたら偶然見つけたので即注文、今日届いたので早速聴いてみました。
この版の第一の特徴は、まず室内楽伴奏の楽器編成のユニークさです。具体的に言うと、フルート(ピッコロ持替)、クラリネット、オーボエ、ホルン(バロックホルン持替)、バスーンの5人の管楽アンサンブルと、アコーディオン奏者の計6名の伴奏となっています。ただし、ツェンダー版のような「翻案」はなく、ほぼ原曲のピアノ伴奏譜を忠実に編曲しています。ピッコロの使用もあり音域も広いですし、どこか線的でスリムな響きが現代的なテイストを持っていますが、全体的にはあたたかく柔らかな音色感のある編曲になっていて耳に心地よいです。一つ変わっていたのは、「宿屋」で、管楽アンサンブルの面々がハミングでハモりながら伴奏をつけているところでしょうか。うらぶれた宿屋のイメージが沸き起こって面白かったです。そして、伴奏の主体となって活躍するアコーディオンがなかなかいい味を出しています。
それから、この版のもう一つの特徴は曲順です。もともとシューベルトが原作のミュラーの詩の順番を変更していたのを、原作通りの順番に戻して演奏されているのです。従って、「菩提樹」の次にいきなり「郵便馬車」のあの角笛の響きが鳴り響くのでかなりびっくりします。その後も、オリジナルのキーのまま曲順が結構入れ替わっていて頭が混乱してきます。編曲者は原作の「ストーリー」を尊重したかったんでしょうけれども、私には違和感があり、やはりシューベルトが調性を考慮して採用した曲順を尊重すべきだったんじゃないかと考えます。
正直言うと、こうしたアレンジと曲順によって再構成された「冬の旅」が一体何を意図して作られたのかというと、結局のところ私にはまだよく呑み込めていません。ピアノ伴奏で聴く「極北の音楽」のイメージが後退して、どこかあたたかい希望を感じさせる音楽になっていることから、「地球温暖化」を感じてしまいます。その温暖化の影響で、辻音楽師のそばを通り過ぎた主人公が、その後解けた氷の洪水に流されたり雪崩に会ったりして死んでしまうのか、はたまた彼岸の世界から救われて生還してくるのか、そこは聴く人それぞれのファンタジーに委ねられているのでしょう。・・・邪道な感想でしょうか。
さて、プレガルディエンの歌は、最近聴いたシューマンとヴォルフの歌曲集(ヘンスラー)で声の衰えを感じさせていたので少し危惧がありましたが、以前ほどではないにせよ彼本来の瑞々しい美声が戻っていて安心しました。そして、この世での居場所を失ってさまよう若者の狂気と絶望を、前述のようなあたたかみを感じさせる伴奏にのって、血の通った優しさで包み込むような歌を聴かせてくれて、とてもいい歌だと思います。改めてプレガルディエンの実力を思い知った気がします。伴奏も、技術的・音楽的にクセのない演奏で、とてもレベルの高い音楽を聴かせてくれていて良かったです。
というように、編曲に若干の疑問符はありましたが、好奇心を十分に満たしてくれる面白いアルバムでした。
最近、私のシューベルト・アンテナが高くなったからかもしれませんが、ピアノ・ソナタにせよ、歌曲にせよ、シューベルトの新盤が結構多く出ているような気がします。今を生きるピアニストや声楽家を魅了し続けるシューベルトの音楽のもつ「力」が何なのか、彼の音楽を聴きながらもっと探っていきたいと思っています。