私のシューベルティアーデ(49) 〜 T.レオンハルトのピアノ作品集Vol.2

2008.08.30 Saturday

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    <<ピアノ作品集Vol.2>>
     トゥルーデリーズ・レオンハルト(Fp)(GLOBE)

    <曲目リスト>
    ・ピアノ・ソナタ第2番ハ長調D.279
    ・アダージョ ト長調D.178
    ・36の独創的舞曲D.365 第1〜18曲
    ・ヒュッテンブレンナーの主題による変奏曲D.576
    ・36の独創的舞曲D.365 第19〜36曲
    ・アレグレット ハ短調D.915


     レオンハルトさんのGLOBEへのシューベルトのピアノ作品集第2巻は、1995年に録音されたものです。彼女の住むスイスで録音されたもので、Jecklin時代からずっとプロデューサーはミヒャエル・アムスラーという方が一貫して担当されています。この方は、レオンハルトさんの公私にわたるパートナーで、レオンハルトさんの音楽を誰よりも理解し、誰よりも愛情を持って、こうして記録に残しておられるのだろうと思います。素晴らしい夫婦愛ですね。

     さて、このディスクでは、レオンハルトさんがJecklinの全集で録音しなかった、未完のソナタ第2番が収録されています。このソナタは、音楽の「構築」への意志を覗かせながらも、結局は「歌」に傾き主題展開に失敗して逡巡してしまうような「不完全さ」が欠点でもあり魅力でもありますが、レオンハルトさんの演奏を聴いていると魅力的な音楽だなあとしみじみ思います。それは、彼女がシューベルトの「歌」の魅力を存分に引き出してくれているからですし、若き日のシューベルトの音楽に潜む「翳り」も余すところなく表現しているからです。特に、第2楽章アンダンテや、第3楽章のトリオの内向的で親密な「歌」の美しさは筆舌に尽くしがたいものがあります。いつまでもその美しさに浸っていたい、そして自分と静かに向き合いたい、そう思わせてくれるようなやわらかな感触。私にはかけがえのない音楽です。この曲では、今までケンプやシフ、ヴァリッシュの演奏が気に入っていましたが、レオンハルトさんの演奏もお気に入りの仲間入りです。

     ソナタに続いては、ここでも宝石のような魅力をもった小品が録音されています。

     まずト長調のアダージョは、ソナタの断章なのでしょうか。やはりシューベルトの"LangsamerSatz"を聴く愉しみに溢れた、哀しくて美しい音楽ですが、レオンハルトさんの音楽へのあたたかい眼差しが嬉しいです。

     そして、「ヒュッテンブレンナーの主題による変奏曲」の美しい演奏には心を打たれます。後半の、物思いに沈むような憂いを帯びた音楽が奏でられるあたり、一つ一つの音が胸にじんわりとしみこんできます。シューベルトの音楽を聴く醍醐味を味わえる名演だと私は思います。例えばダルベルトの演奏も美しかったですが、私はこのレオンハルトさんの演奏をきっとこれからも繰り返し聴くだろうと思います。

     「変奏曲」の前後には、「36の独創的舞曲(ワルツ)」が18曲ずつ録音されています。まさに親しい人達と楽しむためのハウスムジークの典型のような音楽を、レオンハルトさん独特の踊りのリズム感を生かしながら楽しく聴かせてくれます。時々現れる、ふざけたような音の遊びも実にエレガントに奏でられ、聴いていて心が弾みます。 

     最後に収められた有名なアレグレットは、実はレオンハルトさんのシリーズ最新盤の第4集で再録音されています。12年の間隔の空いた2つの録音で聴かれる演奏は、まったく解釈の異なるものです。演奏時間も、再録音が4分48秒、旧録音は3分15秒と、両者で1分30秒ほども違っており、まるで別人が弾いたような音楽になっています。再録音では、ゆったりとした沈み込むような静かな音楽になっているのに比べ、この旧録音では、早いテンポ、強い表情で弾かれていて「内面の嵐」を感じさせるような音楽になっています。アレグレットというより「アレグロ寸前」という音楽。どちらが好きかと言えば、再録音のより成熟した音楽に惹かれますが、これはこれでとても良い演奏だと思います。

     贔屓もいい加減にしろと思われるかもしれませんが、レオンハルトさんのシューベルトは本当に私に至福の一時を与えてくれる宝物です。幸い、GLOBEへの録音は継続されているようで、秋にはまた舞曲集がリリースされるとのこと、今から聴くのが楽しみでなりません。

     ところで、このGLOBEのピアノ作品集の最新盤である第4集(私の感想はコチラ)が、いよいよイギリスのオンラインショップPoint Classicalで9月に発売されるようです。第3集同様、近い将来、日本のCDショップでも入手可能になるといいなあと思います。

    <<ピアノ作品集Vol.4>>
    ・ピアノ・ソナタ第17番ニ長調D.850
    ・メヌエットD.91(ニ長調、ト長調)、336、380
    ・8つのレントラーD.378
    ・アレグレット ハ短調D.915
     トゥルーデリーズ・レオンハルト(Fp) (GLOBE)

    私のシューベルティアーデ(48) 〜 T.レオンハルトのピアノ作品集Vol.1

    2008.08.29 Friday

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      <<ピアノ作品集Vol.1>>
       トゥルーデリーズ・レオンハルト(Fp)(GLOBE)

      <曲目リスト>
       ・メヌエットD.277a
       ・アンダンテD.604
       ・12のワルツD.145
       ・スケルツォD.593-2
       ・12のエコセーズD.299
       ・アダージョD.612
       ・メヌエットD.334
       ・8のエコセーズD.529
       ・スケルツォD.593-1
       ・16のレンドラーD.734

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       またもや T.レオンハルトさんのシューベルト。今の私にはとても大切な音楽なので、聴いたディスクは全部感想を残しておこうと思っています。

       今回は、GLOBEに今も録音を継続している「ピアノ作品集」の第1巻。1993年の録音です。曲目は「2つのスケルツォD.593」以外は、普段あまり顧みられることのない小品ばかり。メヌエット、ワルツ、エコセーズ、レンドラーと名付けられた曲が多いので、「舞曲集」という趣のあるディスクです。

       よく知られているように、シューベルトは夥しい数のピアノ作品を残していますが、よく演奏されるのはピアノ・ソナタ(特に後期の作品)で、こうした小品集というのはごく限られた演奏家が取り上げているに過ぎません。また、一般に「シューベルト弾き」として名声の高い人達も、一部の曲を取り上げているだけ。

       レオンハルトさんが、90年代に入ってオランダのレーベルGLOBEに「ピアノ作品集」を録音開始するにあたり、最初にこうした珍しい小品集をリリースしたのはとても興味深い事実です。レコード会社からの要請なのかもしれませんが、でも、その後彼女が多くの小品を録音していることを考えると、Jecklinへのピアノ・ソナタ全集を録音後の10年近くの間に、まず彼女自身がシューベルトの小品に何らかの価値を見出し、世に広めたいと考えたではないかと私は思います。

       それにしても、何と美しい音楽たちなのでしょうか!
       友人や家族の集いで弾いて皆で踊ったりするために書かれた「ハウスムジーク」の中に、しかもかなり初期の少年時代に書かれた曲の中に、後年の彼の作品の底流にある一種の「メランコリー」が既にここかしこに散りばめられていることに驚きます。1822年以降の「絶望の淵」を見た人の音楽は突如現れたのでは決してなく、元々「何か」を見てしまう天才が書くべくして書いたものだということを、レオンハルトさんの演奏は痛切に教えてくれます。例えば、D.145の「12のワルツ」に聴かれる、ふっと音楽が短調になった時に胸に迫ってくるような憂愁の響きはシューベルト以外には書き得ないものです。シューベルトは初めからシューベルトだった、というわけです。そして、「半ズボンのショパン」や「子宮の中のマーラー」を思わせるような、後年のロマン派の音楽を予告するような音楽も時々出てきます。

       ですけれども、基本的には、D.529の「8つのエコセーズ」のように、おどけたような音の遊びが聴かれる「楽しい」音楽がほとんど。レオンハルトさんも、のびやかな音楽をのびやかに演奏していて、相変わらず彼女の愛器ザイドナー製フォルテピアノは素晴らしい音色。至福の「シューベルティアーデ」のひとときを与えてくれる素敵なアルバムです。

       それにしても、レオンハルトさんは、どんな表情で、どんな動きで楽器を弾いているのでしょうか。よく考えたら、彼女の演奏姿は、写真でもあまり見たことがないので、是非見てみたいものだと思います!

      私のシューベルティアーデ(47) 〜 T.レオンハルトの即興曲集D.935

      2008.08.28 Thursday

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        ・即興曲集D.935
        ・12のドイツ舞曲D.420
        ・幻想曲(グラーツの幻想曲)D.605A
         トゥルーデリーズ・レオンハルト(Fp)(Cascavelle)


         T.レオンハルトさんの弾くシューベルト、今度は即興曲集D.935です。スイスCascavelleレーベルから2002年に発売されたディスク(録音年の記載なし)です。

         まず、ディスクのジャケットを見て気がついたのが、その演奏時間の長さです。以下、代表的な名盤とされるブレンデルとピリスのディスクの演奏時間のデータと比較してみます。

            ブレンデル  ピリス  レオンハルト
        第1番  10:57    12:26    14:47
        第2番  05:39    07:57    07:24
        第3番  11:14    13:05    14:28
        第4番  05:33    06:35    08:38

         ブレンデル(1989年の再録音)が全体で33分ほどで演奏しているところ、レオンハルトさんはほぼ45分もかけてじっくりと演奏しているのが分かります。また、今まで史上最長だと思っていたピリスよりもさらに演奏時間が長くなっています。(恐らくこの記録を塗り替えるのはアファナシエフでしょうね)殊に第1,4曲のテンポがとても遅いことがよく分かると思います。

         実際に音を聴いてみると、レオンハルトさんが、一つ一つの音を慈しむように大切に大切に奏でているのがよく分かります。

         まず、第1曲では、限りなく反復されるフレーズも、決して弾き流したりせずアルペジオのすべての音を愛でるかのようにじっくりと弾いています。しかも、とてもゆったりした音楽の流れの中でも、要所要所で厳格なまでにアクセントが打ち込まれていて、音楽の奥行きと味わいがより深いものとなっています。鈍行電車の窓から、ゆっくりと流れる色彩豊かな外の景色の変化を眺めているような気分になって、とても豊かなひとときを楽しむことができます。

         続く第2曲の優しくたおやかな響きは、レオンハルトさんの愛器1815年のザイドナー製フォルテピアノにしか出せないものです。中間部は少しテンポを早めて熱い思いが噴出してくるかのようですが、主部の柔らかな表現と決して矛盾せずに自然な感情の動きとして生まれ出てきています。これぞシューベルトの音楽、と言いたくなります。

         「ロザムンデ」が引用された第3曲も、やはりかなりのスロー・テンポで、一歩間違えば説明的になってしまうくらいゆっくりと音の綾をほぐしてくれていますが、まるで優美な踊りを見ているかのような気分になるのは、彼女の「語り」の味わい深さゆえだろうと思います。短調がふっと入り込んでくる変奏での痛切さもとても印象的です。この「痛み」の表現があるからこそ、「ロザムンデ」の優しい響きが心に沁みてくるのだろうと思います。

         そして、飛びぬけてテンポの遅い第4曲。他のピアニストが早いテンポ(楽譜の指定では"Allegro Scherzando")で駆け抜けるところ、ゆっくりしたテンポの中でちょっと足を引きずるような独特の歪なリズムで弾いていてユニークです。この曲の「スケルツォ」的性格をより鮮明に出そうという意図なのでしょうか、私にはとても説得力のある解釈だと思いました。ここでも、中間部のおだやかな「歌」に、俄かに重くたれこめるようなくらい雲が忍び寄ってくるあたりの表現の深さが心に響きます。

         私は、シューベルトの即興曲集はこちらのD.935の方が好きなのですが、目下のところ、このレオンハルトさんのディスクに最も心惹かれます。勿論、彼女への「贔屓」も多分にあると思いますけれども、本当に私にはかけがえのない豊かな時間を与えてくれる素晴らしい演奏です。他に、技術的にもっと洗練された演奏、現代ピアノの機能を生かした機敏な演奏、「ソナタ」のようにもっと堅牢に構築された演奏なども知っていますが、これほど「音楽が語りかけてくるもの」を感じさせてくれる演奏はないように思います。

         カップリングの「12のドイツ舞曲D.420」、「グラーツ幻想曲D.605A」は、シューベルトの音楽、それも特に「小品」の語法をまさに自家薬籠中としたレオンハルトさんならではの素晴らしい演奏です。もっとも、後者はシューベルト作かどうか議論があるようですけれども。いずれにせよ、両曲とも他に録音が少ないのでとても貴重かと思います。

         このディスク、日本ではとても入手が難しいようです。商業ベースには乗りにくい商品ではあるのでしょうけれど、きっとこの演奏が気に入るシューベルト好きの方は多いと思いますので、もっと入手しやすい状況になれば良いなあと思います。

         余談ながら、レオンハルトさんの即興曲集D.899も同じレーベルから発売されていて、私は今、既に出荷されたというディスクが到着するのを待っているところです。早く聴きたいです。

        私のシューベルティアーデ(46) 〜 ブレンデルのピアノ・ソナタ選集(旧録音)

        2008.08.26 Tuesday

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          ・ピアノ・ソナタ第4,9,13,14〜21番
           即興曲集、楽興の時、さすらい人幻想曲、3つの小品ほか
           アルフレッド・ブレンデル(P)(Philips)

           →商品詳細はコチラ(HMV/Tower)


           アルフレッド・ブレンデルが、1970年代に録音した第1回目のアナログ録音のピアノ・ソナタ選集が、最近再発売されました。独特の音質で私の印象の悪い"ABSM"方式でリマスターされたEloquenceシリーズでの発売ですが、長らく廃盤になっていたディスクで、しかも廉価だったので早速入手して聴いてみました。再録音と同様、1822年以降に作曲された第14番以降のソナタを中心に演奏されていますが、今回のセットはデジタル録音の4,9,13番も追加されて全部で7枚組のBOXになっています。
           
           ブレンデルが弾くシューベルトのソナタ演奏については、1980年代後半のデジタル録音での2回目のチクルスについてこちらに感想を書きました。今回聴いた70年代の録音は、そこで述べたようなブレンデルの「分析的」「理知的」な解釈への指向は既に明らかですが、しかし、音楽との「距離」のとり方が決定的に違う気がします。後年の再録音が、音楽をより明晰にそして合理的に「言語化」しようとして、シューベルトの内面を客体化して外から見つめるような音楽になっているのに比べ、この旧録音はもっと素直にシューベルトの内面に入って優しく寄り添って「同一化」しようとしているかのようなあたたかさがあります。シューベルトと一緒に息をし、時には深呼吸をしたり、ため息をついたり、そんなさりげない所作のいじらしいまでの優しさに胸を打たれます。フレッシュで酸素の豊富な空気に満ち溢れているようで、シューベルトの音楽を聴く「幸福」をここかしこで感じるような魅力的な演奏ばかりでした。(ほとんどのソナタの第1楽章の提示部のリピートが省略されているのが残念ですが・・・)

           こうした演奏は、まさに働き盛り、音楽家としてはまだ「若手」の40代のブレンデルだったからこそなしえたものではないかと思います。勿論、デジタル録音の熟慮に満ちた深い演奏も素晴らしく、ブレンデルというピアニストの「結論」はそちらにより明確に表現されているのでしょうけれど、シューベルトの音楽の演奏としては私はこちらの旧録音の方に惹かれます。1970年代、この演奏を聴いて、世界中のたくさんの人達がシューベルトのピアノ・ソナタの良さに気づき、再評価するきっかけになったことはまったくもって納得のいく話です。案の定、リマスターには少し不満を感じはしましたが、ブレンデルの素晴らしい演奏を聴けて良かったと思います。

           ブレンデルのシューベルトと言えば、この他に、最近、ディースカウと組んだ「冬の旅」「白鳥の歌」「歌曲集」の3枚のディスクも聴きました。これらは1980年代半ば、2回目のチクルス録音少し前に録音されたものです。この第1回目と第2回目の録音との間に見られるブレンデルの演奏「深化」には、不世出の「シューベルト歌い」であったディースカウとの共演の経験も影響しているのかなあと思ったりもします。

           ところで、私は、シューベルトの没後150年の1978年、彼が来日した時の後期3大ソナタの演奏会に行ったのですけれど、当時小学生だった私にはその素晴らしさのほんの少ししか感じられなかったのだろうと思います。とても残念です。タイムマシンがあったら当時絶好調だった彼のシューベルト、もう一度聴いてみたいです・・・。

          私のシューベルティアーデ(45) 〜 若手の弾く後期弦楽四重奏曲

          2008.08.24 Sunday

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             ミシェル・ダルベルトの「スーパー・ピアノ・レッスン」を見ていたら、ダルベルトが「ピアノ・ソナタ第21番を若いピアニストが弾いてはいけないという意見には反対。むしろ若いうちから挑戦すべきだ。」と言っていました。

             なるほどと思いました。若くして亡くなった作曲家の音楽には、確かにぞっとするような「深み」を感じさせるものが多いですが、どの曲も「青春」という言葉が似つかわしい若々しい音楽でもあるので、演奏家が若いうちにしかできない、「若さ」を武器にした演奏というのもあって良いと思います。私もダルベルトの意見に賛成です。実際、ペリアネスやブラレイ、あるいはキーシンといった若手が素晴らしいシューベルトを演奏しているのですから。

             では、弦楽四重奏曲ではどうでしょうか。ダルベルトの主張通り、若いアンサンブルも果敢に挑戦すべき音楽なのでしょうか?

             その答えは、最近聴いた若い四重奏団の演奏を聴く限り、やはり"Yes"だと私は思います。勿論、特に名作揃いの後期の弦楽四重奏は、円熟期にある団体の数々の「名盤」を私達は知っていますが、シューベルトの音楽にある若い感性への共感度の高い美しい音楽が聴けました。

             まず一つ目は、ミュンヘン音楽アカデミー出身の4人が在学中の1993年に結成したロダン四重奏団が演奏する第15番です。

            ・弦楽四重奏曲第15,12番
             ロダン四重奏団(Amati)

             →詳細はコチラ(Tower/HMV)


             何よりも彼らのみずみずしく澄んだ美しい音色(特に1stVn)が本当に心を洗ってくれるような清々しさ。決して音楽が深刻になり過ぎたり、過度にドラマティックになったりすることがないので、若者の感性の息吹を爽やかな一陣の風に乗せて感じさせてくれて、シューベルトの音楽の「天国的な気分」を存分に楽しむことができます。この名作では、カルミナSQやイタリアSQ、メロスSQ(再録音の方が好き)、アルバン・ベルクSQを愛聴してきましたが、このロダンSQのものも折に触れて聴き直したくなるような演奏です。こんな素晴らしい演奏をワゴンセールで500円で入手できたなんて申し訳ないくらいです。

             次は、最近廉価盤で発売されたベルチャSQの第13番「ロザムンデ」です。

            ・弦楽四重奏曲第10,12,13番
             ベルチャ四重奏団(EMI)

             →詳細はコチラ(Tower/HMV)


             元々、私は彼らのヤナーチェクやバルトークのディスクを大変気に入っていました。このカルテットは、とても若いアンサンブルである割に、重心が低く落ち着いた響きと少し粘り気を帯びた歌い口が特徴ですが、フレージングがとても自然で作為を感じさせずしなやかな歌があり、聴いていてとても心地良い音楽が流れていくので大好きなのです。ですから、2002年録音のこのシューベルトもとても楽しみにして聴きました。
             
             ベルチャSQの演奏は、当然ヤナーチェクやバルトークでのアプローチとは自然と異なりますが、しかし私が好感を持っている彼らの美質を十分に感じさせてくれるもので、これも気に入りました。多分、結成して10年も経たない頃の彼ら彼女らだからこそできた音楽でもあると思います。カップリングの第10,12番も同様に素晴らしい演奏でした。

             ということで、巨匠やスター演奏家の「名演」だけでなく、若い人たちが彼らの若さをもって素直に向き合った演奏にもたくさん出合って行きたいと思います。勿論、シューベルトに限った話ではありませんけれども。

            珠玉の小品 その16 〜 C.シュターミッツ/チェロ協奏曲第1番 第2楽章

            2008.08.23 Saturday

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              ・C.シュターミッツ/チェロ協奏曲第1番ト長調〜第2楽章「ロマンス」
               クリスティアン・ベンダ(Vc)/プラハ室内管弦楽団(Naxos)

               →商品詳細ページはコチラ


               最近、「珠玉の小品」と呼べるような音楽は、ネットラジオのOttavaを通じて知ることが多いのですが、今回とりあげるカール・シュターミッツ(1745-1801)のチェロ協奏曲第1番の第2楽章も例外ではありません。

               夕映えの中、黄金色に黄昏ていく空を見ながら、沈みゆく太陽を見送り、迫り来る夜を迎えるとき、この曲を聴いていたいと思います。チェロが奏でる、平易で優しさに満ち溢れた歌が、疲れて凝り固まった心をあたたかくほぐしてくれるのが心地よいです。チェロの歌にぴったりと寄り添うオケの響きも惚れ惚れするくらいに美しい。神戸出身の私は、ふるさとの六甲山の夕景を思い浮かべながら、ちょっとオセンチな気分に浸りながら聴くことが多いです。

               取り上げるのは例によってNaxosのディスクで、1993年とレーベル初期の録音ですが、ベンダのチェロ、プラハ室内管の伴奏ともにこの曲の美しさを十全に表現した素晴らしい演奏だと思います。そして、今回は第1番の第2楽章だけを取り上げましたが、全部で3曲あるチェロ協奏曲はどれも端整な古典的様式美の中に、のびやかで美しい歌がちりばめられた愛すべき曲ばかり。ハイドンの2曲と肩を並べるような名作なのではないかと私は思っています。

               なお、こちらのサイトでこの曲を試聴することができます。Track2が第1番の第2楽章です。

              気になる演奏家 その8 〜 ハビエル・ペリアネス(ピアノ)

              2008.08.23 Saturday

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                 以前、Harmonia Mundiから出たシューベルトのピアノ曲集のディスクを聴いた感想を書いた、スペインの若手ピアニスト、ハビエル・ペリアネスのディスクを2枚入手しました。彼のうつむき加減のどこか翳りのある音楽が、私の心にとても強い印象を残したからです。

                 購入したディスクの一つは、彼がHarmonia Mundiに最初に録音したモンポウの「ひそやかな音楽」です。(2006年の録音、2007年2月に発売)

                ・モンポウ/ひそやかな音楽(全28曲)、3つの変奏曲
                 ハビエル・ペリアネス(P)(仏Harmonia Mundi)

                 →商品詳細はコチラ
                 →ココで試聴ができます


                 主に1960年代に書かれた「ひそやかな音楽」は、全部で28曲からなるトータル1時間を超える作品集ですが、タイトルどおり、延々と弱音主体で弾かれる「ひそやか」な音楽。私は、モンポウのピアノ作品をちゃんと聴くのはこれが初めてなのですが、まずはこの曲のあまりの美しさにうっとりと聴き入ってしまいました。そして、ペリアネスの弱音を大切にした繊細で美しい演奏でモンポウを聴けてとても嬉しく思いました。シューベルトのディスクでも感じた、彼の物思いに沈んだような「静謐な歌」、そしてどこか気だるく「無力感」をも感じさせるような哀しげな響きが、美しくモンポウの音楽と共鳴しているような気がしました。現代の忙しい喧騒の中に生きる私たちに、静寂や沈黙の意味を改めて問うような姿勢がとても好ましいです。

                 そして、もう一枚。2005年6月にアルハンブラ宮殿「アラヤネスの中庭」で開かれたリサイタルのライヴ録音。(500円で投売りされてました!)


                <<グラナダ国際音楽舞踊祭 Vol.8>>
                ・デ・ネブラ/ピアノ・ソナタ第5番嬰へ短調
                ・ドビュッシー/前奏曲集第1巻より
                  〜亜麻色の髪の乙女,遮られたセレナード,帆,野を渡る風,雲の上の足跡,吟遊詩人
                ・ショパン/ピアノ・ソナタ第3番
                ・ファリャ/歌
                ・ハイドン/ピアノ・ソナタ第40番〜第2楽章プレスト
                ・ショパン/夜想曲嬰ハ短調(遺作)
                 ハビエル・ペリアネス(ピアノ)(RTVE)

                 →商品詳細はコチラ

                 やはりここでも彼の儚げで繊細なピアニッシモの美しさ、決して感情を開放せず自らの内面に向かって何かを問いかけるような静かな語り口が印象的です。特に、アンコールで演奏されたと思われるファリャの「歌」の美しさは筆舌に尽くしがたいものがあります。また、本来快活に弾かれるべきハイドンのソナタのプレストが、どこか暗い影を帯びた音楽になっているのもユニークですし、ラストに弾かれたショパンの遺作の夜想曲も甘美な痛みを覚えるような哀しみが胸を打ちます。ただし、ドビュッシーの前奏曲集抜粋やショパンのソナタ第3番は、並みいる名盤たちの中で突出したものとは言い難いですが(ショパンのソナタは少し線の細い音楽に聴こえます)、ペリアネスの美質はちゃんと楽しめる良い演奏だと思います。

                 ペリアネスについてネットで検索してみたところ、バレンボイムのベートーヴェンのピアノ・ソナタのマスタークラスで彼が弾いている映像がDVDで発売されているそうです。YouTubeでも、そのマスタークラスの模様や、ベートーヴェンのピアノ協奏曲第4番を弾いた映像がUpされています。

                 今後の活躍がとても期待される有望な若手だと思いますので、あたたかく彼の成長を見守りながら彼の演奏を楽しみたいと思います。モンポウとシューベルトを組み合わせた演奏会なんていうのを聴いてみたいです。

                 ペリアネスのオフィシャルHPはコチラ。日本でのマネージメントはコンサートイマジン。是非、再来日を!

                珠玉の小品 その15 〜 ルイス/ロサ・ムンディ

                2008.08.18 Monday

                0
                  ・ルイス/ロサ・ムンディ
                   ギャヴィン・サザーランド指揮ロイヤル・バレエ・シンフォニア
                   (「イギリス弦楽小曲集第6集」より)(Naxos)
                  詳細はコチラ



                   プホールの「ミロンガ」に続いては、イギリスの作曲家ポール・ルイス(1943〜)の弦楽合奏のための小品「ロサ・ムンディ」です。

                   2008年現在で65歳という作曲家の書いた音楽は、「現代音楽」などという名称とは無縁の、甘ったるいと言ってよいほどに甘美で哀愁に満ちたな調べに満ちた音楽で、恋愛を扱った映画やTVドラマの主題曲にも使えそうなくらいです。あるいは「シークレット・ガーデン」の音楽を思い起こす人もおられるかもしれません。

                   とにかく嫌いな人は徹底的に嫌いな音楽でしょうけれど、音楽的にも「甘党」の私にはネコにまたたび的なたまらない魅力を持った音楽です。そう、以前このシリーズで紹介したアザラシヴィリの「無言歌」がお好きな方には、「これも聴いてみて!」と言いたくなるような音楽です。

                   上記CDで演奏しているのはNaxosに「イギリスの弦楽小曲集」シリーズを録音しているサザーランド指揮ロイヤル・バレエ・シンフォニアです。「ロサ・ムンディ」はシリーズ第6集に収録されていて、他にもカース作曲の「ウィントン組曲」やホルストの「ムーア風組曲など佳作揃い。演奏も、音楽のツボをおさえたまったく見事なものです。HMVのサイトの商品詳細ページで試聴と購入が可能です。「ロサ・ムンディ」はトラック5です。

                   ところで、前回の「ミロンガ」も、この「ロサ・ムンディ」も、いずれもネットラジオOttavaを聴いていて気に入ったものです。Naxosの膨大な音源ライブラリから、よくこんないい音楽を見つけてオンエアしてくれたと感謝に堪えません。Ottavaのおかげで、最近の私の購入CDの中のNaxos占有率はとても高くなっていますけれど。

                  珠玉の小品 その14 〜 プホール/ミロンガ

                  2008.08.18 Monday

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                    ・プホール/「ラプラタ川の組曲第1番」〜「ミロンガ」
                     ビクトル・ビリャダンゴス(G)
                     (「アルゼンチンのギター音楽集」より)(Naxos)




                     久し振りの「珠玉の小品」で取り上げたいのは、アルゼンチンの作曲家プホールMaximo Diego Pujol(1957〜)の書いたギターのための「ラプラタ川の組曲第1番」の中の「ミロンガ」です。

                     ミロンガというのはタンゴの一種で、ハバネラのリズムを基本としたバリエーションをもった音楽の形式の一つです。ピアソラの「天使のミロンガ」などの曲が有名ですが、このプホールのミロンガもとても美しく素晴らしい佳作です。(ギター好きの方々の間では既に名曲として知られているのかもしれませんが・・・)

                     それにしても何と甘く切なく甘い旋律なのでしょう!そして、何と繊細で心に染み入るような優しいハーモニーなのでしょうか!「郷愁、憧憬、思慕、切なさ、などの意味合いを持つ(Wikipedia)」ポルトガル語の「サウダージ」という言葉がぴったりくるような音楽。取り上げたNaxos盤のビリャダンゴスの演奏も、胸が締め付けられるような切なさを見事に表現していてとても素敵です。
                     
                     でも、この曲を聴いていると、武満徹の歌「死んだ男の残したものは」、あるいは、子供の頃に大好きだったアニメの「タイガーマスク」のエンディングテーマの痛切な孤独を思い起こさせます。この曲の奥底に日本人たる私の心の琴線に触れる何かがあるのかもしれません。その意味でもとても興味深い音楽です。

                     けだるく物憂げな暑い日の昼間、この曲の調べに包まれながらシエスタの快楽に身を浸したいと思います。現実は「シエスタ」なんてできませんけれども。

                     ところで、ここのページでこの曲を少しだけですが試聴できます。リンクページのトラック14が「ミロンガ」です。また、HMVの商品詳細ページはこちらです。この「アルゼンチンのギター音楽集」、プホールのほかの曲も素敵ですし、アヤラの「南米組曲」、以前カシュカシアンのCDの感想を書いたエントリーで取り上げたグァスタヴィーノのソナタなど珠玉の作品揃いで、音楽好きの友人にプレゼントしたい逸品です。

                    私のシューベルティアーデ(44) 〜 T.レオンハルトのピアノ・ソナタ第15番

                    2008.08.12 Tuesday

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                       早いもので、このブログを立ち上げてから1年が経ちました。何の取り柄もないブログですが、一つだけ、フォルテピアノ奏者のトゥルーデリーズ・レオンハルトさんに関する記事の量だけは「日本一」(もしかして世界一?)を誇れるのではないかと自負しています。

                       ということで、また彼女のサイトから新しいCDを注文して入手しました。

                      ・16のドイツ舞曲D.783
                      ・ピアノ・ソナタ第15番ハ長調D.840「レリーク」
                      ・10の変奏曲D.156
                       トゥルーデリーズ・レオンハルト(Fp)(Gallo)



                       レオンハルトさんご自身が「最も美しいソナタ」と言う第15番「レリーク」の2007年の最新録音のディスクです。彼女はJecklinの全集でもこの曲は取り上げていませんでしたし、10年越しで4枚の「ピアノ作品集」を録音したGLOBEにも未録音なので、恐らく初録音ということになると思います。

                       これも、最近出た17,21番の素晴らしい録音とまったく同じく、私に「生きる喜び」を与えてくれるあたたかい音楽です。彼女のご自慢のザイドナー製フォルテピアノを縦横無尽に使いこなし、シューベルトの心象風景をきめ細やかに聴かせてくれます。第1楽章の特徴的な信号音のような反復モチーフでの、独特のアゴーギグを用いた、まるで前へ進むのを躊躇うかのような足取りはユニークですが、シューベルトの内気でナイーヴな心の震えが聴こえるようでとても説得力があります。そして、ほんの少しテンポを落とし内面を見つめるかのようにじっくりと歌われる第2主題の美しいこと!また、第2楽章の抒情的で歌謡性にみちたフレーズでの歌い回しの美しさはいかばかりでしょう。「ああ、これがシューベルトの音楽!」と叫びたくなります。未完の第3,4楽章は演奏されていませんが、もうこの2つの楽章で十分に音楽が完結しているかのような完成度の高さです。

                       そして、レオンハルトさんが格別の思い入れを抱いて数多く録音しているシューベルトの小品が、ここでもフィルアップとして録音されています。

                       D.783は「16のドイツ舞曲」のみが演奏(2つのエコセーズはカット)されていますが、音楽の核となる踊りのリズムを強めに出して、友人たちとの集いで弾いて楽しんだであろう「楽興の時」をはっきりとイメージさせる演奏が楽しいです。でも、舞曲だからと軽く流すのではなく、ソナタと同じあるいはそれ以上に愛情を注ぎ、真剣に演奏しているさまが胸を打ちます。
                       そして、シューベルトが18歳のときに書いた変奏曲D.156は、既に「死と乙女」や「さすらい人」に通じる重い足取りのリズムが聴かれたり後年のシューベルトの音楽を想起させる魅力的な音楽ですが、ここでもレオンハルトさんはシューベルトの音楽にあたたかく寄り添い、作曲者の心の声をそのまま聴かせてくれるかのようで素晴らしい演奏です。

                       本当に、聴いていて幸せな気分になれる演奏で、シューベルトのピアノの小品たちをもっとたくさん聴きたいと思いました。なお、このディスクも、日本では大変入手困難ですが、レオンハルトさんのHPjpcで入手できます。もっと容易に入手できるようになれば、きっと彼女のファンが増えるだろうにと思います。

                       そう言えば、昨年8月のこのブログの第1回目のエントリーでは、リヒテルの「レリーク」の緩徐楽章のことを書きました。振り返ると個人的にはいろいろなことがあった1年でしたが、シューベルトの音楽と共に歩んだ忘れがたい1年でした。まだまだシューベルトの音楽を聴き続けたいと思います。
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