ハンス・ロット/管弦楽のための組曲ホ長調
2007.12.13 Thursday
ハンス・ロット/管弦楽のための組曲ホ長調
アントニー・ヘルムス指揮ハーゲン・フィル
ハンス・ロット(1858-1884)というオーストリアの作曲家の名前は、ここ数年の間に日本でも随分と知られるようになってきました。それは、彼が残した交響曲がCDや演奏会を通して人気を博しているからです。
ロットの交響曲は、1989年、作曲後100年以上を経て再発見され初演された曲で、彼とウィーン音楽学院での同級生で下宿のルームメイトでもあった、グスタフ・マーラーの交響曲を先取りしたような楽想を多く含んでいます。いや、私はマーラーが第2,3,5番の交響曲でロットの楽想を「引用」したのだと考えています。
しかし、マーラーが本当に「引用」したかどうかはさておいたとしても、大編成のオケを用いたスケールの大きな「未来志向」の音楽は大変魅力的なのは確かで、だからこそこの曲が人気曲の仲間入りしつつあるのだと私は思います。
さて、ロットの交響曲はもう既に6種類のCDが出ているのですが、その他に彼が残した管弦楽曲や弦楽四重奏曲もちらほらとCD化されてきました。
今日取り上げるのは「管弦楽のための組曲」で、最近"初演"された時のライヴ録音です。
この組曲は、「前奏曲(遅すぎずNicht zu Langsam)」と「終楽章(ゆっくりLangsam)」の、2曲からなる約8分の短い曲で、1878年の作曲の実技試験のために書かれたものだそうです。
前奏曲は、ワーグナーの「神々の黄昏」の「夜明け」の冒頭の雰囲気を思わせるような曲で、管の霧のかかったようなハーモニーの中からチェロがのびやかに歌う旋律が立ち上って来ます。しかし、この旋律どこかで聴いたことがあるなあと考えてみると、何と、マーラーの交響曲第1番「巨人」の中の旋律とほとんど同じなのです。第4楽章の388小節でホルンが吹く"レーラーシーファ#ーソーファ#ミラー"がそれで、最後の最後、奏者が立ち上がって高らかに「勝利」を歌い上げるところです。偶然の一致とは思えない訳で、ああ、マーラーはこの曲も知ってたんだなあ・・・と思わずにはいられません。
さて、曲は、静かで厳かな雰囲気を持ったまま次の曲へと移行しますが、金管が堂々としたコラールを歌い上げてオルガンのような分厚い響きを作りあげていて、あの交響曲のフィナーレを彷彿とさせる雰囲気があり、なかなか魅力的な音楽です。勿論、全体にあくまで「習作」の域を出ない曲であるには違いありませんが、ロットという作曲家が、いかに魅力的な音楽的才能を持っていたのかということ、いかにマーラーに大きな影響を与えたかを実感させてくれる貴重な音楽だと思います。
ところで、このCDについてです。
CD発売元のドイツのAcousenseというレーベルからは、他に2枚のロットの作品のCDが出ていて、日本のCDショップでも入手可能ですが、何故かこのCDだけは輸入販売されておらず、私はネットショップを通じて購入しました。
それから、ロットの曲とカップリングされているのは御丁寧にもマーラーの「巨人」です。ただし、演奏されているのはハンブルク初稿版で、当然「花の章」つき。こうやってロットとマーラーを並べて聴けるのはとてもいい企画だし、演奏もなかなか熱がこもっていて、いい味を出してくれていて好感が持てます。(「巨人」のハンブルク稿は、今まで聴いた演奏(若杉、ルード)よりも好きです。)
このCDリリースを機に、この組曲もナマで聴きたいもんです!!