珠玉の小品 その15 〜 ルイス/ロサ・ムンディ

2008.08.18 Monday

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    ・ルイス/ロサ・ムンディ
     ギャヴィン・サザーランド指揮ロイヤル・バレエ・シンフォニア
     (「イギリス弦楽小曲集第6集」より)(Naxos)
    詳細はコチラ



     プホールの「ミロンガ」に続いては、イギリスの作曲家ポール・ルイス(1943〜)の弦楽合奏のための小品「ロサ・ムンディ」です。

     2008年現在で65歳という作曲家の書いた音楽は、「現代音楽」などという名称とは無縁の、甘ったるいと言ってよいほどに甘美で哀愁に満ちたな調べに満ちた音楽で、恋愛を扱った映画やTVドラマの主題曲にも使えそうなくらいです。あるいは「シークレット・ガーデン」の音楽を思い起こす人もおられるかもしれません。

     とにかく嫌いな人は徹底的に嫌いな音楽でしょうけれど、音楽的にも「甘党」の私にはネコにまたたび的なたまらない魅力を持った音楽です。そう、以前このシリーズで紹介したアザラシヴィリの「無言歌」がお好きな方には、「これも聴いてみて!」と言いたくなるような音楽です。

     上記CDで演奏しているのはNaxosに「イギリスの弦楽小曲集」シリーズを録音しているサザーランド指揮ロイヤル・バレエ・シンフォニアです。「ロサ・ムンディ」はシリーズ第6集に収録されていて、他にもカース作曲の「ウィントン組曲」やホルストの「ムーア風組曲など佳作揃い。演奏も、音楽のツボをおさえたまったく見事なものです。HMVのサイトの商品詳細ページで試聴と購入が可能です。「ロサ・ムンディ」はトラック5です。

     ところで、前回の「ミロンガ」も、この「ロサ・ムンディ」も、いずれもネットラジオOttavaを聴いていて気に入ったものです。Naxosの膨大な音源ライブラリから、よくこんないい音楽を見つけてオンエアしてくれたと感謝に堪えません。Ottavaのおかげで、最近の私の購入CDの中のNaxos占有率はとても高くなっていますけれど。

    珠玉の小品 その14 〜 プホール/ミロンガ

    2008.08.18 Monday

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      ・プホール/「ラプラタ川の組曲第1番」〜「ミロンガ」
       ビクトル・ビリャダンゴス(G)
       (「アルゼンチンのギター音楽集」より)(Naxos)




       久し振りの「珠玉の小品」で取り上げたいのは、アルゼンチンの作曲家プホールMaximo Diego Pujol(1957〜)の書いたギターのための「ラプラタ川の組曲第1番」の中の「ミロンガ」です。

       ミロンガというのはタンゴの一種で、ハバネラのリズムを基本としたバリエーションをもった音楽の形式の一つです。ピアソラの「天使のミロンガ」などの曲が有名ですが、このプホールのミロンガもとても美しく素晴らしい佳作です。(ギター好きの方々の間では既に名曲として知られているのかもしれませんが・・・)

       それにしても何と甘く切なく甘い旋律なのでしょう!そして、何と繊細で心に染み入るような優しいハーモニーなのでしょうか!「郷愁、憧憬、思慕、切なさ、などの意味合いを持つ(Wikipedia)」ポルトガル語の「サウダージ」という言葉がぴったりくるような音楽。取り上げたNaxos盤のビリャダンゴスの演奏も、胸が締め付けられるような切なさを見事に表現していてとても素敵です。
       
       でも、この曲を聴いていると、武満徹の歌「死んだ男の残したものは」、あるいは、子供の頃に大好きだったアニメの「タイガーマスク」のエンディングテーマの痛切な孤独を思い起こさせます。この曲の奥底に日本人たる私の心の琴線に触れる何かがあるのかもしれません。その意味でもとても興味深い音楽です。

       けだるく物憂げな暑い日の昼間、この曲の調べに包まれながらシエスタの快楽に身を浸したいと思います。現実は「シエスタ」なんてできませんけれども。

       ところで、ここのページでこの曲を少しだけですが試聴できます。リンクページのトラック14が「ミロンガ」です。また、HMVの商品詳細ページはこちらです。この「アルゼンチンのギター音楽集」、プホールのほかの曲も素敵ですし、アヤラの「南米組曲」、以前カシュカシアンのCDの感想を書いたエントリーで取り上げたグァスタヴィーノのソナタなど珠玉の作品揃いで、音楽好きの友人にプレゼントしたい逸品です。

      珠玉の小品 その13 〜 プーランク/即興曲「エディット・ピアフへのオマージュ」

      2007.11.26 Monday

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        プーランク/即興曲第15番「エディット・ピアフへのオマージュ」
        田部京子(P)

        詳細はこちら

         エディット・ピアフの映画が公開されています。ヒットしてるんでしょうか。マリア・カラスとか、ジャニス・ジョップリンだとかのように、その一生を映画にしてみたいと思わせるディーヴァはいるものですね。

         さて、今日はフランスの作曲家プーランクが、交友のあったエディット・ピアフへの賛美として書いたピアノの小品で、いくつかある即興曲の第15番にあたります。

         出だしからしてまさに「パリの秋」の音楽。(旋律がコスマの「枯葉」に似てます。)
         そこはかとない甘い哀愁が立ち昇る旋律が物憂げに、でもどこかに憧れをもって歌われますが、香水やタバコの香り、パリのカフェを思い起こさせるようなアンニュイな雰囲気があって、まさに「粋」を感じさせる、とても素敵な曲だと思います。この曲のエンディング、音楽はなぜか重く沈むように消えていきます。エディット・ピアフの人生の悲劇を暗示しているのでしょうか。

         私はこの曲をもっぱら田部京子のピアノで楽しんでいます。タッチが少し重めなので、例えばロジェのように音楽の流れが軽くなり過ぎず(ロジェの演奏、これはこれでとても良い演奏だとは思っていますが)、少し肉感的なエロスを音楽から感じるからです。

         今の季節、グールドのブラームスの間奏曲などと併せて、必ず聴きたくなる演奏です。この曲が収録された「ロマンス」というアルバム全体も私の愛聴盤のひとつです。

         死ぬまでに一度は弾いてみたい曲でもありますが、さてどうなりますことやら。

        珠玉の小品 その12 〜 カスキ/前奏曲(管弦楽版)

        2007.10.31 Wednesday

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          カスキ/前奏曲Op.7(管弦楽編曲版)
          レイフ・セーゲルスタム指揮ヘルシンキ・フィル

          試聴はコチラで

           ヘイノ・カスキ(1885-1957)は、シベリウスと同じ日に亡くなったフィンランドの作曲家。

           つい先日(9/20)没後50年の命日を迎えた訳ですが、ピアノ曲以外はほとんど知られていないせいか、当ブログにコメントを頂いたこともあるsuomestaさんの「スオミ・フィンランドの音楽&文化」で、舘野泉氏の弾くピアノ作品集のCDが取り上げられたくらいかもしれません。ただ、彼のピアノ曲には結構人気はあるようで、楽譜が容易に入手できるようですし、舘野氏のCDは現役で発売されていて、ミクシィにもコミュがあったりもします。

           さて、この前奏曲も、もともとはピアノのために書かれた曲ですが、セーゲルスタムの/ヘルシンキ・フィルの"Scandinavian Rhapsody"というアルバムには、管弦楽に編曲されたバージョンが収められていて、私はこれを非常に愛聴しています。

           この曲の魅力は、とにかく旋律が美しいの一言に尽きるでしょうか。
           
           冒頭から、うつむき加減の、でも、情熱を帯びた「憧れ」のような旋律があふれ出てきて、作曲者の心のうちを打ち明けられたような、そんな想いにかられます。聴いていると、心なしか体温が上昇するのを感じますが、やがて、高まった思いを静かに回想して思いに耽るような佇まいになり、最後は柔らかく曲が閉じられます。原曲のピアノ版のライナーノートには、この曲に対し「宗教的雰囲気のある曲」という評がありますが、確かに、その沈潜には「祈り」の雰囲気を感じます。

           私のお気に入りの指揮者セーゲルスタムは、この曲でも、たっぷりオケを鳴らして熱っぽいロマンを歌い上げています。フィンランドの曲にしては「地球温暖化」を思わせる解釈ですが私は大好きです。(彼の師であるパヌラ指揮のナクソス盤はあっさりしていてこちらが本筋かも・・・)

           このオケ版、日本で演奏されたことはあるのでしょうか?アンコールか何かでやったら、いい感じで演奏会を締められそうな気がします。もっとも、曲の題名は「前奏曲」ですけれど・・・。

          珠玉の小品 その11 〜 チャイコフスキー/10月

          2007.10.14 Sunday

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            チャイコフスキー/「四季」〜10月(弦楽合奏版)
            ダヴィッド・ゲリンガス指揮南西ドイツ室内管弦楽団

            ※上記サムネイルをクリックしてCDを購入できます。

             10月も半ば近くなりました。金木犀が香り、空気が澄んで空も高く、秋らしくなってきました。木々の葉の色の微妙な変化や、まだ明るいうちから聴こえる虫たちの声に気づくたび、心の色もそれに合わせて少しずつ変わっていくような気がします。清々しく透明な気持ちや、何かが喪われていく淋しげな気持ちが交錯します。

             ・・・なんて書くと、ちょっとおセンチに過ぎるでしょうか。

             今日とりあげるチャイコフスキーの「10月」はピアノ曲集「四季」の中の曲。まさにおセンチの極致の哀しげ、淋しげな音楽です。私は原曲のピアノ曲のCDは持っておらず、上記の弦楽合奏版しか持っていませんが、この名チェリストのゲリンガス指揮の演奏、「溺愛」しています。ヴァイオリンやチェロのソロの対話の美しさはため息が出るほどですし、柔らかく優しい弦楽の伴奏も、金木犀の香りのように心の襞にすっと入り込んできます。(この弦楽合奏版のCD、曲間に詩の朗読が入ります)

             併録の「夜想曲」「メロディ」などのチェロと弦オケの曲も素敵な演奏です。

             それにしても、この曲、本当に何と哀しげな10月なんでしょうか。それがロシアの秋なんでしょうか。行ったことのない私には分かりません。

             ところで、この「10月」の音楽をバックに素晴らしいアニメを作った人がいます。
             「話の話」「霧に包まれたハリネズミ」などで有名なアニメ作家ユーリ・ノルシュテインです。彼がまだ若い頃の古い作品ですが、とても美しくて見入ってしまいます。このアニメ全編をYouTubeで見られます。

            http://www.youtube.com/watch?v=mG-FziMRum0

            また、DVDでも発売されています。


            ※上記サムネイルをクリックしてDVDを購入できます。

             これから、公園で遊ぶ子供たちのように秋をいっぱい見つけたいものです。

            珠玉の小品 その10 〜 フェルナンデス/バトゥーケ

            2007.10.10 Wednesday

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              フェルナンデス/バトゥーケ
              レナード・バーンスタイン指揮ニューヨーク・フィルハーモニック

              ※サムネイルをクリックすると試聴・購入可能です("試聴3"がバトゥーケ)

               この「珠玉の小品」ではしっとりした曲ばかりを取り上げてきましたが、今日は、毛色のまったく異なる元気な曲を取り上げることにしました。

               オスカー・ロレンツォ・フェルナンデス(1897-1949)という作曲家は、 リオデジャネイロ生まれ、詩人・教師としても知られ、音楽家になる前は化学を専攻していた人。彼が1930年に書いた3部からなる管弦楽組曲"Reisado"の第3部が「バトゥーケ」という曲で、「バトゥーケ」とはアフリカに起源を発する踊りの様式なのだそうです。太鼓に合わせて足踏みやら手拍子やら歌いながら踊るとのことです。

               この曲を私が知ったのはバーンスタインの「ラテン・フェスティバル」というアルバムを通してです。コープランドの「エル・サロン・メヒコ」やキューバ舞曲を始め、ヴィラ=ロボスの「ブラジル風バッハ第5番」(独唱はダヴラツ)、チャベスの「シンフォニア・インディア」など楽しい音楽満載のアルバムとして有名です。映像で残っている「青少年のためのコンサート」のシリーズでも取り上げられた曲があります。

               中でもこのフェルナンデスの「バトゥーケ」は、弦のオスティナートに乗って、管楽器が楽しげで野性味溢れる音楽を繰り広げていて爽快、聴いて一度で気に入りました。途中で出てくるトランペットのソロのノリの良さはゴキゲンです。イヤなことを忘れて「踊らにゃソンソン」という気分にさせてくれます。録音当時45歳のレニーのまさに快調に飛ばす演奏はとてもエキサイティングで、曲の終盤のアッチェランドもこちらの心拍数を上げるのに十分なスリリングさです。

               誰が聴いても幸せな気分になれる曲で、演奏会のアンコールでやったら大ウケ間違いなしと思いますが、まだ私はナマでこの曲を聴いたことがありません。(CDは女性指揮者リン・ウィルソン指揮シモンボリバル響のDorian盤等あり)どうやら貸し譜は容易に入手できるとのことで自分が所属していたオケで推薦したのですが、あえなくブラームスのハンガリー舞曲に惨敗してしまいました・・・。

               最近注目のドゥダメル君あたりの演奏でナマを聴いてみたいです!!

              珠玉の小品 その9 〜 M.グールド/エレジー

              2007.10.03 Wednesday

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                イスラエルのメロディ
                モートン・グールド/エレジー TVドラマ「ホロコースト」より
                アラン・ヘザーリントン指揮シカゴ弦楽アンサンブル


                 1978年10月に放送されたアメリカNBCのTVドラマ「ホロコースト」は、当時小学生だった私も見た記憶がありますし、
                その前に放送された「ルーツ」(クンタキンテ!)ほどではないにせよ、放映の翌日にはクラスでもかなり話題なっていたのを覚えています。

                 そのドラマの内容はほとんど覚えておらず、メリル・ストリープが出演していたなどというのも今さっき知ったような状況ですが、その音楽を担当していたのがモートン・グールドだったということは覚えていました。

                 1992年に発売された「イスラエルのメロディ」というアルバムは、本当はブロッホの作品を聴きたくて買ったのですが、ここに収められたグールドの「エレジー」の弦楽合奏版がとても印象に残りました。実はこの曲はドラマ音楽作曲の後に追加された曲だということなのですが、陰惨なドラマが終わった後、エンディングテーマとして使えそうな静かな音楽です。アウシュヴィッツの敷地に育った草がそよそよと風になびいているのを見るような風情の音楽で、そこにこめられた想いは、哀しさでも、祈りでもなく、ただ虚しさ、無力感のようなものに支配されたようなものに思えます。犠牲者のことをただひたすら無心に追憶しているような人の姿が見えます。

                 あまりしょっちゅう聴きたいと思う種類の音楽ではありませんが、でも、いつまでも記憶にとどめておきたい音楽だと思っています。

                 DELOSから出ているシュヴァルツ指揮の映画音楽集では、この曲はトランペットでメロディが演奏されていますが、私はこの弦楽合奏版でこそこの曲の美しさが際立つと感じています。最近入手困難なアルバムだそうで、誰かが新録音しないものかと鶴首しています。

                珠玉の小品 その8 〜 ラーション/「冬物語」からエピローグ

                2007.09.26 Wednesday

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                  ラーシュ=エーリク・ラーション(1908-1986)/劇音楽「冬物語」からエピローグ
                  オッコ・カム指揮ヘルシンボリ響

                  ★上記リンクから試聴できます。トラック6です。

                   今日はスウェーデンの作曲家ラーションの音楽。シェークスピアの戯曲「冬物語」のラジオ放送ために書いた22曲の劇伴の中の「エピローグ」です。

                   冒頭から弦のユニゾンで歌われる旋律が何とも悲しく美しい。2度同じフレーズが繰り返された後の1オクターブの跳躍が胸に刺さります。その旋律に応える管の合いの手は、悲しみを認知するような優しさがあります。そして、木管楽器による悲しみを縁取るような美しいフレーズに引き続き、冒頭の旋律が今度はフォルテで奏でられると悲しみはより心の奥深くに入り込んできます。

                   しかし、この音楽にはどこか「救い」があるような気がします。どこか親しげな表情をもった悲しみを感じるのです。決して聴く者を絶望の淵に追いやったりすることのない音楽、清々しい涙を誘う音楽、とでも表現すれば良いでしょうか。実際の戯曲のどの場面で使われた音楽なのかは知らないのですけれど。

                   上記のカム指揮の「スウェーデン管弦楽曲集」所収の演奏は、決して感傷的にならない淡々とした語り口が却って胸を打ちます。また、とても素晴らしい選曲のアルバムだと思います。同じラーションの「田園組曲」、ステンハマルのカンタータ「歌」の間奏曲など、北欧音楽ファンの必須アイテムのオンパレードです。

                   ラーションの作品集としては以下のアルバムも私のお気に入りです。

                  ラーション/作品集

                  ラーション/管弦楽曲集(偽りの神、冬物語、小組曲、田園組曲)
                  ウォレン=グリーン指揮ヨンショーピング・シンフォニエッタ


                   「冬物語」は4曲が抜粋されているのも嬉しいですし、エピローグはカム盤とは対照的に生々しくロマンティックですが大好きな演奏です。

                   ああ、いつの日にかラーションの音楽をコンサートホールで聴けますように。