気になる演奏家 その10 〜 アリス・アデール(P)

2009.02.01 Sunday

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    気になる演奏家 その9 〜 アントニ・ヴィト(指揮)

    2008.12.20 Saturday

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       私がアントニ・ヴィトという指揮者の名前を強烈に意識したのは、仕事をしながら聴いていたOttavaでシューマンの交響曲第4番のフィナーレの演奏に接した時でした。(コチラのエントリー参照)

       楽章の冒頭から中庸のテンポで淡々と進んでいたかと思うと、とんでもない箇所(2分過ぎ)で急にテンポが落ちて、しばらく音楽がダッチロールするかのように不安定な進行になってしまうのです。とても穏やかで真面目な人が、急にかがみ込んで凄まじい形相でもがき苦しみ始めたのを見るかのようでびっくり仰天してしまい、仕事の手も完全に止まってしまいました。と同時に、シューマンの音楽の中にある、ものすごく暗鬱で不安な気分を見事に表現しているような気がして、そのメロメロさ加減が妙に気に入りました。そして、Naxosレーベルから沢山CDが出ているギャラの安い二流指揮者かと思っていたヴィトという指揮者は、実はカルトな面を持った面白い人なのかもと思いました。

       そして、早速シューマンの交響曲第2、4番のディスクを買って聴いてみました。

      ・シューマン/交響曲第2、4番
       アントニ・ヴィト指揮ポーランド国立響(Naxos)


       確かに、例の4番のフィナーレの例の妙なテンポにはのけぞりました。しかし、そのほかは全体にごくごくオーソドックスな演奏で余り強い印象は残らず、ヴィトの名前はしばらく忘れていました。

       その数ヵ月後だったでしょうか、またしてもOttavaなのですが、とても美しいスメタナの「モルダウ」の演奏が聴こえてきました。冒頭のフルート2本の掛け合いの部分からすべての音が丁寧に歌いこまれていて、あの有名な弦の旋律も心に沁み入るような独特の節回しで歌われていてとても気に入ったのです。一体誰の演奏だろうと思って調べてみると、これがヴィトの指揮によるNaxos盤だったのです。「我が祖国」は大好きな曲なので全部聴かねばと思い、これも早速CDを購入して聴いてみました。

      ・スメタナ/連作交響詩「我が祖国」全曲
       アントニ・ヴィト指揮ポーランド国立響(Naxos)


       これは私にとっては決定的な演奏でした。全体にとても穏やかな雰囲気をもった音楽で、いわゆる熱狂や興奮は感じられませんが、実に味わいのあるニュアンスに富んだ歌い口と、常にバランスを崩さない充実した響きの美しさが印象的ですし、何より音楽への深い愛情が感じられて私にはとても好ましかったのです。邪推ながら、自国が地図から2度消えた経験を持つポーランド人の演奏家たちが、扇情的なナショナリズムの表出には決然と背を向け、自分たちの静かな、しかし、確かでゆるぎない「愛国心」をダブらせて演奏したのではないかと思ったくらいです。期待した以上に、とても心に残る演奏でした。

       ヴィトの演奏をもっと聴きたくて、以下のようなディスクを購入して聴きました。いずれもNaxosまたはAvex(500円シリーズ)から出ている廉価盤ばかりです。

      ・マーラー/交響曲第5番(ポーランド国立響)
      ・マーラー/交響曲第8番(ワルシャワ・フィル)
      ・ドヴォルザーク/チェコ組曲、英雄の歌、序曲「フス教徒」(ポーランド国立響)
      ・チャイコフスキー/交響曲第5番(ポーランド国立響)
      ・チャイコフスキー/交響曲第6番(ポーランド国立響)
      ・シューマン/交響曲第1、3番(ポーランド国立響)


       いずれの演奏も、弦を主体したしっとりとした中欧的な響きが支配的で、決して音が混濁しないのがヴィトの職人的な腕を感じさせるところです。また、あのシューマンの4番のフィナーレのような「えっ?」というような場面はほとんどなく、まったくケレン味のない淡々とした運びの音楽ばかりです。多くの人にとっては、時として力感不足に感じられたり、もう少し音楽を盛り上げてくれてもいいのにと思う場面があるのでしょうが、私は、ヴィトの独特のオケの歌わせ方や、充実したオケの鳴らし方にとても魅力を感じました。

       まず、ドヴォルザークの「チェコ組曲」では、哀愁に満ちたスラヴの歌が心に響きます。「のだめ」で有名になったポルカの鄙びた雰囲気、ロマンツァの清潔な抒情は素晴らしく、私が今まで愛聴してきたドラティ盤に勝るとも劣らない品格を持った演奏で気に入りました。「英雄の歌」もとても立派な演奏ですし、スメタナの「我が祖国」の「ターボル」と同じ旋律が引用された「フス教徒」の真摯なドラマの表出には胸を打たれます。

       マーラーは、例えば5番のアダージェットの中声部のハーモニーを強調した透明で美しい響きと、しっかりと支えの効いたカンタービレが魅力的ですし、「千人」は祝祭的な音楽というよりは、静謐な祈りの音楽ともいうべき佇まいが独特で、室内楽的とも言える響きの中からとても美しいファウストの昇天の場面が聴こえてきて感動的でした。

       チャイコフスキーは、何も変わったことはしていませんし、巷にひしめく名盤たちの間にあっては非常に地味な演奏ですけれども、緩徐楽章で聴かせる弦のメランコリックな歌の美しさにはとても惹かれました。「悲愴」の第1楽章のクライマックスでのトロンボーンの「宣告」の場面の深々とした響きや、悲痛なフィナーレの弦の歌は印象的ですし、5番の2楽章のカンタービレの美しさは絶品だと思います。

       シューマンも、いずれも地味な演奏には違いありませんが、ヴィトの演奏の魅力に気づいてから改めて2,4番を聴くと飽きのこない滋味深い演奏に思えました。特に2番の第3楽章がとても美しいですし、1,3番での緩徐楽章の歌の美しさも心に残ります。そして、特に弦のアーティキュレーションが非常にクリアなのですが、響きが必要以上に分厚くなりがちなシューマンの交響曲の演奏としては、それはとても凄いことではないかと思います。

       これらのディスクでヴィトの演奏に完全にハマった私は、さらに、彼の母国ポーランドの作曲家の音楽も聴いてみました。

      ・ペンデレツキ/ポーランド・レクイエム(ワルシャワ・フィル)
      ・シマノフスキ/交響曲第2、3番、スターバト・マーテル他(ワルシャワ・フィル)
      ・カルウォヴィチ/交響詩集第1、2集(ワルシャワ・フィル、ニュージーランド響)

       シマノフスキとカルウォヴィチについては先週のエントリーで感想を書いた(シマノフスキカルウォヴィチ)ように、私は深い感銘を受けましたが、数年前のレコード・アカデミー賞の声楽曲部門で受賞したペンデレツキもとても素晴らしい演奏でした。

      ・ペンデレツキ/ポーランド・レクイエム
       アントニ・ヴィト指揮ワルシャワ・フィル (Naxos)


       すっかり前衛作曲家から足を洗ったペンデレツキの曲はとても聴きやすいもので、歴史の不条理への怒りを見せつつ、激しいほどに痛切な哀しみが胸を打つ音楽になっています。ブリテンの「戦争レクイエム」と並べてみたくなるような圧倒的な感銘を与える作品だと思います。特に、ポーランド語も交えて歌われる「思い給え」は、胸が引き裂かれるような痛みに溢れた音楽でとても印象に残りますし、「涙の日」の美しい旋律や、「ベネディクトゥス」の透明な響きも素晴らしい。「リベラ・メ」の静かな嗚咽のような弦の切れ切れの歌の痛切さはいかばかりでしょうか。ヴィトの指揮するワルシャワ・フィルは、以前の手兵ポーランド国立響に比べて、より豊かな響きとパワーを持ったオケで、この曲の持つ魅力を十分に引き出していると感じます。

       面白いことに、これら3人のポーランドの作曲家の演奏では、前述のような力感不足を感じることはほとんどありません。やはり自国の作曲家の音楽ということで、とても深い愛情と情熱をもって演奏しているのでしょうか、時には激しいほどの感情移入を見せて音楽の内奥へと深く入り込んでいくさまに心を打たれます。あるいは、ヴィトのごく最近の録音ということもあって、このところの彼の充実ぶりを如実に反映したものなのかもしれません。いずれにせよ、どれも本当に掛け値なしに素晴らしい演奏だと私は思います。

       大量の録音をおこなっているヴィト、私が聴けたのはまだ氷山の一角でしかありませんが、もっと彼の演奏を聴きたいと思います。

       昨今の指揮界では、今まさに来日中のグスターヴォ・ドゥダメルのような、聴き手に熱狂と興奮を与える、ある意味とても「分かりやすい」指揮者が主流になるのだろうと思います。それはそれでとても楽しみなことではありますが、ヴィトのように地味だけれど味のある音楽を聴かせてくれる確かな腕を持った人の演奏を楽しむことも忘れたくないと思います。そして、ヴィトという音楽家の「成熟」の過程を、リアルタイムで感じ取れるのをとても楽しみにしています。

      気になる演奏家 その8 〜 ハビエル・ペリアネス(ピアノ)

      2008.08.23 Saturday

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         以前、Harmonia Mundiから出たシューベルトのピアノ曲集のディスクを聴いた感想を書いた、スペインの若手ピアニスト、ハビエル・ペリアネスのディスクを2枚入手しました。彼のうつむき加減のどこか翳りのある音楽が、私の心にとても強い印象を残したからです。

         購入したディスクの一つは、彼がHarmonia Mundiに最初に録音したモンポウの「ひそやかな音楽」です。(2006年の録音、2007年2月に発売)

        ・モンポウ/ひそやかな音楽(全28曲)、3つの変奏曲
         ハビエル・ペリアネス(P)(仏Harmonia Mundi)

         →商品詳細はコチラ
         →ココで試聴ができます


         主に1960年代に書かれた「ひそやかな音楽」は、全部で28曲からなるトータル1時間を超える作品集ですが、タイトルどおり、延々と弱音主体で弾かれる「ひそやか」な音楽。私は、モンポウのピアノ作品をちゃんと聴くのはこれが初めてなのですが、まずはこの曲のあまりの美しさにうっとりと聴き入ってしまいました。そして、ペリアネスの弱音を大切にした繊細で美しい演奏でモンポウを聴けてとても嬉しく思いました。シューベルトのディスクでも感じた、彼の物思いに沈んだような「静謐な歌」、そしてどこか気だるく「無力感」をも感じさせるような哀しげな響きが、美しくモンポウの音楽と共鳴しているような気がしました。現代の忙しい喧騒の中に生きる私たちに、静寂や沈黙の意味を改めて問うような姿勢がとても好ましいです。

         そして、もう一枚。2005年6月にアルハンブラ宮殿「アラヤネスの中庭」で開かれたリサイタルのライヴ録音。(500円で投売りされてました!)


        <<グラナダ国際音楽舞踊祭 Vol.8>>
        ・デ・ネブラ/ピアノ・ソナタ第5番嬰へ短調
        ・ドビュッシー/前奏曲集第1巻より
          〜亜麻色の髪の乙女,遮られたセレナード,帆,野を渡る風,雲の上の足跡,吟遊詩人
        ・ショパン/ピアノ・ソナタ第3番
        ・ファリャ/歌
        ・ハイドン/ピアノ・ソナタ第40番〜第2楽章プレスト
        ・ショパン/夜想曲嬰ハ短調(遺作)
         ハビエル・ペリアネス(ピアノ)(RTVE)

         →商品詳細はコチラ

         やはりここでも彼の儚げで繊細なピアニッシモの美しさ、決して感情を開放せず自らの内面に向かって何かを問いかけるような静かな語り口が印象的です。特に、アンコールで演奏されたと思われるファリャの「歌」の美しさは筆舌に尽くしがたいものがあります。また、本来快活に弾かれるべきハイドンのソナタのプレストが、どこか暗い影を帯びた音楽になっているのもユニークですし、ラストに弾かれたショパンの遺作の夜想曲も甘美な痛みを覚えるような哀しみが胸を打ちます。ただし、ドビュッシーの前奏曲集抜粋やショパンのソナタ第3番は、並みいる名盤たちの中で突出したものとは言い難いですが(ショパンのソナタは少し線の細い音楽に聴こえます)、ペリアネスの美質はちゃんと楽しめる良い演奏だと思います。

         ペリアネスについてネットで検索してみたところ、バレンボイムのベートーヴェンのピアノ・ソナタのマスタークラスで彼が弾いている映像がDVDで発売されているそうです。YouTubeでも、そのマスタークラスの模様や、ベートーヴェンのピアノ協奏曲第4番を弾いた映像がUpされています。

         今後の活躍がとても期待される有望な若手だと思いますので、あたたかく彼の成長を見守りながら彼の演奏を楽しみたいと思います。モンポウとシューベルトを組み合わせた演奏会なんていうのを聴いてみたいです。

         ペリアネスのオフィシャルHPはコチラ。日本でのマネージメントはコンサートイマジン。是非、再来日を!

        気になる演奏家 その6 〜 モンペリエ国立管弦楽団

        2008.06.08 Sunday

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           最近はヨーロッパまで足を運んで演奏会を聴いておられる方が、以前に比べればとても多くなっているようです。ブログやSNSでも、ウィーンやベルリン、ロンドンなどから詳細な演奏会のレポートを書く方が結構おられて、ああやはりあちらでは刺激的なコンサートが多いなあとため息交じりで拝読致しております。

           しかし、例えば、フランス南端でスペインとの国境近くにあるモンペリエという街からの演奏会レポートというのは見たことがありません。私自身、モンペリエは、かのグルダが当地で開いた演奏会のライヴCDで名前を知っているくらいでしたが、数年前からここのオケがとても活発で刺激的な活動をしていることを知り、この街に興味を持つようになりました。このオケ、どうやら、毎年のようにレアなオペラの上演をおこなうだけでなく、滅多に聴けない珍しい管弦楽曲や現代音楽もさかんに演奏しているようなのです。果たしてこんな曲ばっかり演奏したり録音したりしていて、儲かっているんだろうか?ととても気になります。

           今回取り上げるモンペリエ国立管関係のCDは以下の3点。

          ・ハンス・ロット/交響曲第1番
           フリーデマン・レイヤー指揮モンペリエ国立管(Naive)

           2000年のライヴ録音。とても情熱的な演奏です。オケは大してうまくはないですし、ライヴ特有の傷もありますが、オケの面々が、ロットの音楽を夢中になって大変な愛情をもって演奏しているのがひしひしと伝わってくる演奏で大変好感が持てます。特に、緩徐楽章での音楽する喜びに満ち溢れた演奏は胸を打ちます。いくつかあるロットの交響曲のディスクの中でも、個人的に非常に好きな演奏です。なお、オーストリア出身の指揮者レイヤーは、このオケを振って沢山のCDを出していますが、どうやら特定のポストには就いていないような感じです。

          ・ヴィットリオ・ニェッキ/歌劇「カッサンドラ」
           クピード(T)マッツオーラ(S)ほか
           エンリケ・ディーメッケ指揮モンペリエ国立管(AGORA)

           
           イタリアの作曲家ニェッキ(1876-1954)といっても殆ど知られていない作曲家ですが、彼の遺したオペラ「カッサンドラ」は、R.シュトラウスの「エレクトラ」に非常に大きな影響を与えた作品として知られています。事実、ニェッキはこの「カッサンドラ」のスコアをR.シュトラウスに送って意見を求めたのだそうですが、そのすぐ後に書かれた「エレクトラ」が余りに「カッサンドラ」に似ているので、盗作疑惑で裁判沙汰になったとかならなかったとかという逸話が残っています。
           実際、「カッサンドラ」冒頭のオケの跳躍する音型は、「エレクトラ」冒頭の「アガメームノン!」という絶叫の音型とそっくり。また非常に起伏に満ちたドラマティックな音楽が強烈で、恐らくシュトラウスが刺激を受けただろうことは容易に想像がつきます。
           ここでも、モンペリエのオケはディーメッケの棒の下、大変に情熱的な演奏を繰り広げています。久々の蘇演のライヴで世界初録音となったディスクですが、希少価値があるだけというだけでなく、この隠れた名作を世に紹介するのだという気魄を感じさせる演奏に胸を打たれずにはいられません。最近は入手困難かもしれませんが、後期ロマン派の音楽好きには人気が出てもおかしくない作品だしディスクだと思います。

          ・アルファーノ/歌劇「復活」
           マッツオーラ(S)ナゴレ(T)ペトロフ(Br)ほか
           レイヤー指揮モンペリエ国立管(ACCORD)


           アルファーノといえば、言うまでもなくプッチーニの「トゥーランドット」の補筆をして完成させた作曲家。彼の作品は、交響曲やオペラ「シラノ・ド・ベルジュラック」などが知られていますが、モンペリエでは珍しいトルストイ原作の「復活」が上演されたようです。
           モンペリエのオケは、ここでも美しい旋律にあふれた聴きやすい作品を、やはりとても魅力的に演奏してくれています。レイヤーの指揮も音楽のもつ体温をきちんと伝えてくれる優れたものだと思います。ただ、私個人としては、恥ずかしながらトルストイの「復活」は未読なので、あまり深く音楽を追い切れていないので、読破してから再び聴いてみたいと思っています。

           それにしても、ほんとにこんなマニアックな作品をよく見つけてくるものだ、そして、このオケはこれでよく商売が成り立つものだと思います。モンペリエという街、よっぽどものすごいお金持ちが集まっていてオケのパトロンになっているのでしょうか。どなたか事情をご存知の方がおられたら教えて欲しいです。

           このところ、大阪センチュリー交響楽団への補助金打ち切りに伴う存続危機のニュースをよく目にします。10万人の署名が集まったそうですが、補助金打ち切りは決定で、「オケの自立を促す」との方針とのこと。行政が芸術文化に冷淡なのは何とも悲しいことですけれども、これも、大阪という「街」とセンチュリーという「オケ」が結局うまい関係を築けていなかったということなのかなと、ちょっとドライな考え方をしてしまいます。関西の音楽事情はあまりよく知らないのでまことに勝手な意見かもしれないのですが。

           だとすると、このモンペリエのオケのような、そうでなくてもマイノリティたるクラシック・ファンの中でも更にごく限られたファンしか見向きもしなさそうなレアな音楽を取り上げることに使命感を燃やす団体が、どのように街の人々に受け容れられているのか、どんなふうに経営が成り立っているのかを観察してみれば参考になることも多いのではないかと思ったりします。例の大阪の知事をあっと言わせて見返せるようなアイディアの源泉がそこにあるのかもしれません。勿論、このモンペリエのオケだって財政は火の車という可能性はなくはないですけれども・・・。

           街とオーケストラが、その数に関係なくいい関係を築けるようになれば、よき文化が根付いたということの証になると思います。私たち音楽ファンは、いい音楽を聴ける選択肢が増えることを心から願っています。

           話は戻りますが、このモンペリエのオケの最新盤がいくつかリリースされています。私が狙っているのは、ピツェッティのピアノ協奏曲。ピツェッティといえば紀元2600年の行事で日本に委嘱されて交響曲を作曲した人。これまた珍しい曲をやってくれます。ピアノが長老チッコリーニということもあって大変注目しています。



           いつの日にかこのオケのナマを聴いてみたいです。来日してもらってもいいですし、私自身がモンペリエに行って聴ければいいなあと夢見ています。

          気になる演奏家 その4 〜 エヴァ・クピエツ(P)

          2008.05.18 Sunday

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             私が、ポーランド出身の女流ピアニスト、エヴァ・クピエツの名前を強烈に意識したのは、昨年ヘンスラーから発売されたヤナーチェクのピアノ作品集が発売されたときです。

            ・ヤナーチェク/ピアノ作品集
             エヴァ・クピエツ(P)(Hänssler)



             当時私は、これが2枚組であって結構高価に感じたこともあり、欲しいと思いつつ買うのをためらってそのままになっていました。そして、そうこうしているうち7割引やら半額というようなバーゲンがあって彼女の既発売のディスクを見つけ、「これが良かったらヤナーチェク買おう」というような乗りで2枚購入しました。

             まず、数年前にクリスティアン・ツィマーマンが来日した折に弾いて話題となった、ポーランドの女流作曲家グラジナ・バツェヴィチのピアノ作品集。ツィマーマンの弾いたソナタ第2番の他、ソナチネ、「子供のための組曲」、10の練習曲などといった小品が全部で9曲24トラック収められています。

            ・バツェヴィチ/ピアノ作品集
             エヴァ・クピエツ(P)(Hänssler)



             バツェヴィチの音楽は、結構斬新な書法で書かれた音楽ではありますが、ところどころ美しいメロディや楽しげなリズムが突然現れたりして、今ひとつ焦点が合わせづらくとらえどころのない音楽に私は思えるのですが、クピエツはこれらの曲を決して「分かりやすく」とか「面白く」聴かせようとなどとはせず、ごく生真面目に音楽とまっすぐに対峙しているという印象を受けました。モノトーン系の音色で彩られた渋い演奏で、色彩で聴く者の耳の関心を表面的な音にひきつけてしまうことは注意深く避け、音楽の構築、もっといえば骨格の美を聴きとって欲しいとでもいいたげな音楽が、彼女の演奏の大きな特徴かと思いました。これはバツェヴィチの少々晦渋な音楽の美質とうまく調和していて、なかなかいい演奏だと思いました。

             次に聴いたのがドイツのカルテット、ペーターゼンSQと組んだショスタコーヴィチのピアノ五重奏曲です。

            ・ショスタコーヴィチ/ピアノ五重奏曲(+弦楽四重奏曲第1,4番)
             エヴァ・クピエツ(P)/ペーターゼンSQ(Capriccio)



            こちらは私も日ごろから聴き馴染んだ曲なので、バツェヴィチよりも大いに親しみを持って聴きましたが、ここでのクピエツの演奏は、前述のような「生真面目さ」も感じますが、音色も表現もかなり重心の低い、どこか暗鬱で厭世的な雰囲気さえ漂うものに感じました。第3楽章の諧謔的なスケルツォでも、はしゃいだり攻撃的になったりすることもせず、青白くて不健康にさえ思える翳りを見せていて不気味で、とても印象に残りました。

             そんな2枚のディスクを聴いてクピエツの演奏には好印象は持ったのですが、私は件の彼女のヤナーチェクのピアノ曲集を買おうという強い意志を持ちませんでした。それは、そのクピエツの「暗さ」が前面に出た音楽性に少ししんどさのようなものを感じていたからです。

             しかし、その時はやって来ました。クピエツのヤナーチェクを中古CDショップで見つけたのです。1890円の美品。何の躊躇もなく買ってしまいました。

             そしてまず、私が偏愛している「草蔭の小径を通って」から聴いてみました。
             やっぱり暗く重心の低い演奏でした。特にエキセントリックな表情もないしテンポも少しゆっくりめというくらいなのに、なぜか音楽が重く感じられるのです。そして、彼女の奏でる音楽に深く没入していこうとすると、決して情におぼれない理知的でクールな表現にコツンとぶち当たって、仕方なく彼女の演奏から少し距離を置かざるを得ない、そんなことの繰り返しをしておりました。あの美しい「フリーデクのマリア」など、もっとみずみずしく抒情的な演奏をしてくれても良さそうなものなのに、なんだか無愛想。とても不思議な音楽です。

             でも、クピエツの演奏、私は嫌いじゃない。いや、このヤナーチェクは多分繰り返して聴くことがあるだろうと思っています。「草蔭」以上に、「霧の中」のほの暗いファンタジーにはとても引きつけられるものがあります。実際、買ってから2度ほど聴いてしまいました。ヤナーチェクのピアノ曲は私は大好きで、名盤の誉れの高いフィルクシュニーの演奏を始め、ルディ、アンスネス、シフらの素晴らしい演奏、そしてアンゼロッティのアコーディオンなどでよく聴きますが、クピエツの演奏も私には忘れられない演奏の一つになりそうです。

             どうしてだかよく自分でも理解できていないのですが、このクピエツというピアニストは、やはりとても気になります。かつては病弱でいつも運動場の片隅で体育を見学していたような女性を想像させる少し暗くて屈折した表情や、口説いてもいつも無関心でつれない返事しかしてくれないような女性を思わせるクールさに、少しゾクゾクしてしまうからかもしれません。とてもヘンなたとえですが。

             彼女の演奏、他にはスクロヴァチェフスキー指揮で弾いたショパンのピアノ協奏曲(Oehms)や、イザベル・ファウストのヴァイオリン・ソナタの伴奏盤(Harmonia Mundi)、そして、ショパンのノクターン全集(Eloquence)などがあるようですが、特にノクターンは聴いてみたいと思います。また、7月に入荷するシマノフスキの交響曲全集(コルド指揮ポーランド国立放送響)の中でも協奏交響曲を弾いているそうなので、これは是非聴いてみたいと思っています。このように彼女は自国ポーランドを初め、ロシアや東欧の作曲家の作品を多く取り上げているようですが、もっと他の作品を聴いてみたいなあと思っています。このスタイルでバッハなんてどうだろうなあとか、ラヴェルなんて意外に面白いかもと思ったりしています。

            気になる演奏家 その2 〜 サンドリーヌ・ピオー(ソプラノ)

            2008.01.13 Sunday

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               私が今、特に気になっている演奏家の一人が、最近評価が急上昇中のソプラノ、サンドリーヌ・ピオです。彼女の最新盤「エオボカシオン」というアルバムを聴いてノックアウトされてしまったのです。


              『エボカシオン』 ピオー(S)/マノフ(P)
              →詳細はコチラ

               このアルバムについてのピオー自身のコメントを以下に引用します(HMVサイトより)
              このアルバムには何も特別な「ストーリー」はありません。そのかわりに、欠如や幸せ、悲しみといった感覚。また、意識と無意識のあやふやな境界線上にある夢。時に女性性や愛といった偉大なる神秘を背景に立ち上ってくる、くらくらするようなエロティシズムへの招待、といったものが存在しているのです。

               ショーソン、R.シュトラウス、ドビュッシー、ツェムリンスキー、ケックラン、シェーンベルクの歌曲と、一見、何のとりとめもない曲が並んでいますが、ピオー自身のコメントにあるとおり、女性の肌のぬくもりや吐息を感じさせるような官能的な歌がまさにそのように歌われています。しかも、彼女のどこまでもよく伸びるピュアで美しい声のおかげで決して嫌味になることなく、何度聴いてもとても新鮮で体の芯からぞくぞくするようなものを感じとることができます。

               特に彼女が録音を切望したというR.シュトラウスの「おとめの花」での潤いのある清楚なエロス、ショーソンの「リラの花咲く頃」での香りの絶妙の仄かさなど、とても印象的でした。

               そこで、調子に乗って以下のディスクも入手しました。


              ドビュッシー/歌曲集 ピオー(S)/インマゼール(p)
              →詳細はコチラ

               これは以前、かの吉田秀和氏が激賞したことで有名なディスクですね。ドビュッシーの音楽そのものの特質のせいか私には少し薄味な歌唱に思えましたが、マラルメの詩のためにつけた歌曲などとても美しくて印象的でした。


              ドラージュ/歌曲集 ピオー(S)fouchecourt(T)Gardeil(Br)/Eidi(p)
              →詳細はコチラ

               フランスのドラージュという作曲家はこのCDで初めて知りました。ピオーは、オッターのディスクも出ている「4つのインドの詩」や、日本の俳句の仏語訳に音楽をつけた「7つの俳諧」で歌っていますが、こちらは、異国情緒にあふれた歌を、むせかえるような官能をまとって歌っていて、いっぺんに気に入ってしまいました。(男声による歌曲も美しいです)

               とにかく、今私はピオーにくらくら状態です。きっとこの人は、これからもっと注目されて有名になっていく人だと思いますが、もぎたてのレモンのようなフレッシュな声を失わず、いい歌を聴かせて欲しいです。次は、R.シュトラウス(ピアノ伴奏版で「4つの最後の歌」とか)やシューマン、あるいは、グリーグやプーランクの歌曲を聴きたいと思いますし、オペラでも彼女に相応しい役の歌を聴きたいです。

               ※彼女の歌う"Willow Song"の動画がコチラで見られます。
               http://www.youtube.com/watch?v=foW5GxbQyGg&feature=related

              気になる演奏家 その1 〜 エーノッホ・ツー・グッテンベルク(指揮)

              2007.12.27 Thursday

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                 ドイツの指揮者エーノッホ・ツー・グッテンベルクと言っても、日本では無名な指揮者と言っても良いのかもしれませんが、それでも、彼が1990年代にBMGに録音したバッハの受難曲の録音や、自ら1997年に結成したクラング・フェアヴァルトゥング管弦楽団等との、FARAOレーベルへの宗教音楽の録音などで「知る人ぞ知る」存在ではあります。

                 私は、彼の指揮した2度の「マタイ受難曲」のCDがとても気に入っています。モダン楽器で比較的大編成のオケと合唱を用いた1990年にミュンヘンで録音した旧盤は、彼の地で活躍したリヒターの衣鉢を受け継いだような重厚でロマン的とも言える演奏で、特に合唱が非常にマッシヴな響きを聴かせ、「民衆」が主役の「マタイ」でした。
                 一方、2003年に再録音した盤は、古楽器奏法を用いた小編成のオケと合唱で、非常に速いテンポで鋭角的なドラマを生み出しており、旧盤とは全く別人のような音楽です。これらのまったく方向性の違う解釈が、同じ人の棒から生まれてくるのはとても興味深いですが、その両方の演奏で、たとえ音楽のスタイルはまったく異なっていようとも、「マタイ」の物語性に淫したり感情に溺れたりすることなく、常にとても醒めた感覚で音楽を客体化して音楽の本質を把握した上で、「このような演奏でなければあり得ない」というほどまでに切実な厳しさを感じさせる、という点では共通しているように思えます。だからこそ、戸惑うこともなくこの2つの演奏を味わうことができるのだろうと思います。

                 バッハの音楽で、ここまでの演奏をできるというのは、やはりなかなか凄い力をもった指揮者なのだろうと思います。

                 また、クラング・フェアヴァルトゥング管弦楽団と録音した、バッハの「クリスマス・オラトリオ」、モーツァルトの「レクイエム」、ベートーヴェンの「エロイカ」など、いずれも同傾向の厳しさを感じさせる名演だと思います。ブルノ・フィルを指揮した「ドイツ・レクイエム」も、冒頭の合唱があまりに繊細で美しく、この世のものとも思えないほどです。どうしてこれらのCDがあまり話題にならないのか不思議なくらいです。

                 前記のクラング・フェアヴァルトゥング管弦楽団は、グッテンベルクの音楽哲学に共感して集まったプロの集団で、「グッテンベルク記念オーケストラ」みたいなものだそうで(あのペーター・ザドロも在籍したことがあるとか・・・)、かなりカリスマ性のある、魅力的な指揮者でもあるようです。また、インタビューを読んでみたりしていると、主張のはっきりした人のようで、「メンデルスゾーンみたいなオ●マ野郎」なんて暴言を吐いたりしてます。この人のパーソナリティがどんなものなのかもとても興味があります。

                 さて、そのグッテンベルクの1年ぶりの新盤は、クラング・フェアヴァルトゥング管を指揮した、ブルックナーの交響曲第4番のウィーン楽友協会でのライヴ録音なのだそうです。しかもそこでは、悪名高いレーヴェの改訂版が用いられていると言うことで、一体どんな演奏が繰り広げられているのか、聴くのがとても楽しみです。

                 グッテンベルク氏、多分まだ日本には来ていないはずです。ドイツでは、お得意のバッハやハイドン、ヴェルディの宗教曲のみならず、マーラーの4番だとかショスタコの「バビ・ヤール」なども振っているそうで、CDリリース、日本への招聘、どこかで誰かがやってくれないかなと願ってやみません。大ブレイクするかもしれませんよ。